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最後の猫

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薬は吐き出しそうになりながらもなんとか飲んだ
水分が多いと誤嚥しそうで怖かったから
ペースト状にしたミルクパウダーを
食べさせようと
寝転がったままのあの子を抱き上げてバスタオルでくるむ
体は冷えているし手足も固まっている感じがする
うまく曲げ伸ばしが出来ない
口も開けようとしないがどうにか犬歯の後ろにシリンジを差し込んで
なるべく頭をあげないように少し押さえてから
ペーストを口に入れた
途端に激しく抵抗して口から出そうとして頭を動かし
吐くような声を出して咳き込んだ
恐れていた誤嚥をしたんじゃないか
苦しそうな咳をするあの子にどうしてあげればいいのか
もしかして私が今死なせてしまうのかと
ほとんどパニック状態になった

回らない頭のまま市内で夜間診療をしている病院のことを思い出し
電話で今の状態を話して
翌朝にはかかりつけに行く予定だが
今すぐ診てもらった方がいいか尋ねた
先生は
咳が出ているだけで出る間隔も空いていっているなら
肺炎は起こしていないと思われるから多分大丈夫ですが
呼吸がおかしくなるとか変化があったら来てくださいと
丁寧で優しく対応してくださった
咳が出る間隔が長くなりやがて収まった時
少しだけ安心はしたが
もう今後投薬も強制給餌も一切やらないとこの時決めた
もっと早く決断するべきだったかもしれない
こんなに大事な、大好きなあの子を苦しめるなんて
生きていてほしい
自分のそばにいてほしいという自分のわがままに
いつまでも付き合わせるわけにはいかない

「明日病院へは行くけどそのまま話だけで帰るかもしれないからね」
ぐったりしているあの子に話す
電話でもいいかもしれないけど
実際に見てもらわないと状況が伝わらないだろうから
通院はあの子には負担になるかもしれないけど
私はどうも判断を誤ることが多いから
ほかの人にも見てもらった方がいい
先代猫が入院しても回復の兆しがなく
悪くなるばかりになった時
もうあきらめて明日の夕方には家に連れて帰ろうと
決めた日の翌朝に病院で亡くなって
どうして明日でなく今日連れて帰らなかったのか
ずっと後悔していた

咳は出なくなったがぐったりして弱弱しく
とても目が離せない
もしかしたらもう本当にすぐそこにその時が来ているのじゃないか?
寝なければいけないとベッドに横になってみたが
よく寝たと思って目を覚ますと10分しか経っていなかったり
寝たり起きたりを繰り返し
そのたびに下へ降りてあの子の様子を確かめていたが
もう眠れないとわかったので朝5時には起き上がり
あの子の側でコーヒーを飲んで病院が開くのを待つことにした






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