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最後の猫

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一瞬何が起こったのか受け入れられなかった
だって今までうなり声をあげていたのに
ちょっと前には口を開けて辛そうにではあるけど
ちゃんと呼吸をしていたのに
痩せてしまった体でもゆっくりと上下に動いていたのに

少し開いた口からは息が出ていない
体を撫でてもまるっきり動きは感じられない
信じられなかったがあの子は逝ってしまったんだ
あっけなく
私のたった1日だけの休日に合わせるように
痩せただけで変形もせず可愛いままの顔で
私に安楽死の選択をさせることを拒否するかのように
最後まで自分が一番のプライドの高いお嬢さんのまま
私にはやはりもったいない凄いいい子だった

どうしようもなくあの子を撫でていると
数分もせず名前を呼ばれた
どう答えればいいのかわからなかったが
キャリーを覗きこんであの子を撫でたまま
間に合わなかったみたいです、とだけ言うと涙が止まらなくなった

そのまま待つように言われ少し待つと
診察室に入るように言われた
院長が瞳孔や心音を確認して亡くなっていますと宣告され
その後汚れて固まったままの毛を大方きれいに整えてから
あの子は白いタオルにくるまれて私に返された

もう動かないあの子の体をキャリーに戻して
まだ信じられないような気持ちのまま家に帰る
考えたくもないのに
今日が終わるとまた3連勤になるから
今日中に火葬の手筈を整えなければならない
なんで夏なんだろう
真冬だったらもう少しあの子とゆっくりお別れできるだろうに

冷たく硬くなっていくあの子を何度も撫でて
まだ少し残っていた毛玉を切ってブラシをかける
抱き上げてあの子の良く居た場所に連れていき
わかっているのかいないのかぼんやりしている相棒猫にも
最後の挨拶をした

こんなに可愛いいい子がうちに来てくれて
本当に嬉しかったんだよ
もっともっとずっと一緒に居たかった
こんな美人でいい子にふさわしくない人間でごめんね
それでも好きでいてくれたらしいのはわかってるよ
少しは楽しかったり幸せだったりしてくれたかな
嫌なことばかりしたけど元気になってほしかっただけなんだ
愛してるから
これだけはずっと言っていたけど愛してるよ

SNSでどこかの獣医さんが
ペットとお別れするときはごめんねじゃなくて
ありがとうと言ってほしいって
私はうちにいてくれてうれしいって言ったけど
ありがとうはあまり言えてなかった気がする
後悔ばかりが先に来てしまうけれど
今までたくさんの可愛いをありがとう

フワフワして半分現実じゃないような気分のまま
お経をあげてもらい離れた場所にある火葬場へ向かう
あの子が逝ってしまったという現実を受け入れる為に
火葬に立ち会うことにした
あの子の体が炉に入れられ点火スイッチが入った時は
自分のどこかが引きちぎられたような気がした
小さな骨壺に小さな骨を収め
特徴だったお団子しっぽの骨を分骨用に分ける
これで受け入れられるのかはまだ分からなかったが
受け入れるしかない


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