獣医師の質 その2〜コミュニケーション能力〜

小動物臨床獣医師にとって、コミュニケーション能力はある意味臨床力(知識と技術)よりも重要な側面を持っています、

多少の喜び方や怖がり方の違いはあるけど、ペットは自分では動物病院の評価をしないし、お金も払ってくれません。
そう、評価するのもお金を支払うのも彼らの飼い主なんです。
あまり良い表現ではありませんが、法律上ペットは物であり、所有者(飼い主)に帰属しています。
なので、結局は飼い主が満足しないと喜んで対価を支払ってくれないのです。

結果がすべて、だと思うのですが、まだまだ不完全な獣医療、かつ相手は物言わぬ動物です。お願いして安静にしてくれるわけでもないし、傷口を舐めないよう説得できるわけでもありません。
飼い主の皆さんに心しておいてほしいのは、どんなに良い獣医師でも、不完全なのです。
良い獣医師で知識や技術をどんなに蓄積しようと、まだ治せない病気はあります。理解されていない病態や、治療法が見つかってない病気もあります。
愛するペットの状態が芳しくないとき、飼い主さんは非常に不安になるものです。
そんなときのちょっとしたミスや不注意、説明不足、予期せぬ経過が、獣医師に対する不信感を生みます。
例えば感染です。手術の傷が化膿してしまっている、点滴を入れていた管のところが感染している、などなど。状態が悪かったりそれまでに様々な抗菌剤を投与してきた症例であれば、普段使っている抗菌剤が有効でない場合があります。
説明不足は言ったつもりが伝わっていなかったり、これくらいは理解しているだろうなと思ったことが理解されていなかったり、といったことが散見されます。
特に生体にとって異物を用いた治療(例えば骨折や靱帯断裂時のプレート、消化管のチューブ)を行った場合や点滴の管を少しかじって便から排出された際など、非常に敏感に反応する方がいらっしゃいます。説明しているつもりだったり、理解しているだろう、といった獣医師側の価値観で説明を行っていると、経過が悪い際にトラブルになります。
理解してもらいたいのは、獣医師も、飼い主も、どちらも間違っているわけではなくて、それぞれ一生懸命に正しいことをしたいと思っているという点です。だからこそやっかいなものです。

ここで、コミュニケーション能力の差が出ます。
フランクに仲良くなることだけが獣医師にとってのコミュニケーション能力ではありません。
動物を大切にする気持ちを持っているか、真摯に診療に臨んでいるか、自分の力量をきちんと推し量ることができていて、間違いを認めてくれる人物なのか。
つまり、大切なわが子を安心して預けるに値する獣医師だ、といかに認識してもらう能力が重要となってきます。
これはコミュニケーションを経て培うもので、何度も診察を繰り返している内にお互いに親しみがわき、なにがあっても後悔はしない、この人にすべてを任せるという気持ちになってきます。
こうなってくるとどんな名医もその獣医師には簡単には敵いません。その飼い主さんとそのペットにとっての最善な獣医療はその獣医師によるものなのかもしれません。
例えば、その先生が手術できないような難病であった場合、その先生が紹介してくれた獣医師なら無条件で信頼するようになってきます。

もうおそらく助からない緊急で運ばれてきた一期一会の診療に臨む際も、その1回の診察で一挙手一投足に気を使って話をし、なんとか信頼を勝ち得ないといけません。
初めて会う飼い主さんに、あなたのペットはガンです、と申告しないといけないときもあります。
こういったとき、知識と技術はあってもコミュニケーション能力が乏しい獣医師ではなんともドライな対応になってしまいます。
職人気質、というと聞こえはいいのですが、ある程度のコミュニケーション能力、つまり気遣いが望まれます。
どうしようもない状態で、この先ネガティブなことしか待ち受けていないときでも、少しの希望や、不安や苦痛を取る方法を一緒に模索していく、そんな姿勢を感じさせてくれる、そんなコミュニケーション能力が望ましいです。

もともと口コミが新しい飼い主の獲得に大きな影響を与えるとは言われていますが、近頃は口コミサイトやSNSの持つ情報拡散力が侮れません。
無愛想だった、高圧的だったなどと書き込まれると、新しい飼い主さんはちょっとやめておこうかな、という気分になってしまいます。
お医者さんですらある程度のコミュニケーション能力が望まれるご時世ですので、当然獣医師にも望んで良い一面です。

この獣医師にコミュニケーション能力があるのかどうか、実は飼い主さんからしたら一目瞭然で、診察後に気分がスッキリしているか、なんだかモヤモヤが残っているか、その感覚で十分です。スッキリしていたら再びその獣医師に診察をお願いしていけばよいでしょう。
モヤモヤしているなら違う獣医師に診てもらうことも検討してみましょう。
いざというとき、そのモヤモヤ感が許せない!という気持ちになってしまう可能性があります。

最後に一つ、多くの小動物臨床獣医師は朝から晩まで忙しく働いています。
動物のために、飼い主のために、と過剰なほどのサービスを提供していると思います。
緊急事態が毎日のように訪れ、予定通り進むなんてことはありえません。
どうしても診察しながら、次の患者のことや今日の手術のこと、入院中の子のことが頭の片隅に残っています。
今日の先生、なんだかイライラ感が出ているな、、、くらいのモヤモヤが稀にあっても、大目に見ていただけると、感謝この上ないですm(_ _)m

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