笠松競馬の疑問
51人もの処分者を出した笠松競馬。
その処分には疑問が残るので、個人的にまとめてみたいと思う。
あくまで法律の専門家でも何でもない、一個人としての感想に過ぎないことを第一に述べておく。
発表資料によると、それぞれが施行規則ないしは指示事項により処分されたとのことだが、そもそも規則全文が(公開されるべき「条例」であるにもかかわらず)公開されていないため、まずは岐阜県地方競馬組合地方競馬実施条例施行規則(通称:規則)について、今回適用された部分を引用する。
第67条は「関与の禁止又は停止」に関する規定、第72条は「調教若しくは騎乗の停止、戒告又は賞典停止」に関する規定、第92条は「調教師の指導監督の義務」に関する規定である。
岐阜県地方競馬組合地方競馬実施条例施行規則
第6章 競馬の公正の確保(第67条~第75条)
(関与の禁止又は停止)
第67条 次の各号のいずれかに該当する馬主、調教師、騎手又はきゅう務員(各号のいずれかに該当することとなった当時(第15号及び第16号については、その有罪判決の中で示された罪となるべき事実があった当時)において当該身分を有していた者を含む。)は、競馬に関与することを禁止し、又は停止する。
(1) 第37条第1項又は第2項の規定に違反した者 ※禁止薬物関係
(2) 第37条第1項から第3項までの規定に違反する行為に係る馬を事情を知って出走させ、又は出走させようとした者 ※禁止薬物関係
(3) 不正な目的をもって出走させることができない馬を出走させ、又は出走させようとした者
(4) 馬登録証を偽造し、若しくは変造した者又は馬登録証を不正に行使して馬の出走を申込み、若しくは出走させた者
(5) 競走に関し、不正な目的をもって、馬主、調教師、騎手又はきゅう務員に対し、暴行し、脅迫し、又は財物その他の利益を与え、若しくは与えることを約束した者
(6) 競走において、不正な目的をもって馬の全能力を発揮させなかった騎手
(7) 不正な目的をもって第41条第1項の規定に違反した騎手 ※加重重量関係
(8) 不正な目的をもって第94条の規定に違反した馬主 ※名義貸し
(9) 不正な目的をもって第95条の規定に違反した者 ※名義貸し
(10) 前2号の違反に係る馬を事情を知って預託を受けた調教師
(11) 競走に関し、不正な協定の申込みをし、又は不正な協定をした者
(12) 競走に関し、不正な目的をもって財物その他の利益を収受し、要求し、又は収受することを約束した者
(13) 競走に関し、不正な目的をもって競走馬に危害を加え、若しくは加えようとし、又は不正な処置をし、若しくはしようとした者
(14) 競馬の開催を妨害し、又は開催執務委員その他競馬に関する事務に従事する者の職務執行を妨害した者
(15) 法、日本中央競馬会法(昭和29年法律第205号)、自転車競技法(昭和23年法 律第209号)、小型自動車競走法(昭和25年法律第208号)又はモーターボート競走法(昭和26年法律第242号)の規定により罰金以上の刑に処せられた者
(16) 前号に該当する者を除くほか、禁錮以上の刑に処せられた者であって競馬の公正を害するおそれがあると認めるに足りる相当の理由があるもの
(調教若しくは騎乗の停止、戒告又は賞典停止)
第72条 馬主、調教師、騎手又はきゅう務員が次の各号のいずれかに該当するときは、戒告し、又は期間を定めて調教若しくは騎乗を停止する。
(1) 第18条に規定する報告を拒み、又は同条に規定する命令若しくは指示に従わなかったとき。
(2) 第28条第2項、第33条、第34条、第36条、第37条第3項、第41条第1項、 第42条第2項若しくは第3項、第43条、第50条から第52条まで、第55条、第56条、 第56条の2第2項、第57、第60条第1項若しくは第3項、第64条第2項から第4項まで若しくは第6項、第66条第1項、第92条から第98条まで又は第100条から第102 条までの規定に違反したとき。
(3) 第45条の3の規定に違反したとき又は第49条の各号に該当したとき。
(4) 正当な理由がないのに第39条第1項、第42条第1項、第45条の2、第53条又は第54条の規定に違反したとき。
(5) 第37条第1項から第3項までの規定に違反する行為に係る馬を事情を知らないで出走させ、又は出走させようとしたとき。
(6) 業務上の注意義務を怠ったとき。
(7) 競馬の健全な施行に著しい悪影響を及ぼすべき非行のあったとき。
(8) 省令第56条第1項に規定する中央競馬と地方競馬の交流による競走又は外国の競馬のかつ安全な実施を害する行為をしたとき(その行為について既に当該競走に係る制裁を行う機関により戒告又は過怠金に相当する処分を受けた場合を除く。)。
(9) 前各号に掲げる場合のほか、競馬の公正を害し、若しくは害しようとし、又は競走に支障を生じさせたとき。
2 前項の処分を受けた調教師、騎手又はきゅう務員には、期間を定めて賞金等の全部又は一部を交付しない措置(以下「賞典停止」という。)をとることがある。
3 前2項の規定は、調教師が馬主の代理人として行った行為については、裁決委員が必要と認めた場合に限り調教師に適用する。
(調教師の指導監督の義務)
第92条 調教師は、その所属する調教師補佐、騎手及びきゅう務員に対して、競馬の公正を害することのないよう指導監督しなければならない。
上記から明らかなように
第67条違反は関与禁止・関与停止
第72条違反は調教若しくは騎乗の停止、戒告又は賞典停止
第92条違反も第72条第1項(2)に規定されているので調教若しくは騎乗の停止、戒告又は賞典停止
となる。
次に指示事項だが、指示事項に関しては
なお、この指示事項に違反した場合は、岐阜県地方競馬組合地方競馬実施条例施行規則第72条第1項第6号、又は第9号により制裁されます
と書かれているため、指示事項違反は調教若しくは騎乗の停止、戒告又は賞典停止となる。
ちなみに、指示事項1-(3)は馬券売買の禁止、5-(3)は騎手の報告義務についてである。(のちに引用したいので、(22)も紹介しておく)
指示事項
1. 一般事項に関する指示
(3) きゅう舎関係者は、競馬開催期間内(当該競馬の開催日及びその前日をいう。以下同じ。)に競馬場内に入場し、又はその方法いかんを問わず勝馬投票券を購入したり、賭博行為は絶対にしてはならない。
(22) きゅう舎関係者は、馬の売買およびその斡旋等、家畜商とまぎわらしい行為をしてはならない。
5. 騎手に関する指示
(3) 騎手は、競馬の公正を害するおそれのある誘惑、又は脅迫を受けたとき、またそれらしいと感じたときは、直ちに所属調教師、及び管理者にその概要を報告しなければならない。
さて、まず、競馬法違反で略式起訴され罰金刑となった4名は規則第67条第5号と第15号を根拠として『関与禁止』となっている。
さらに、馬券購入を認めた4名は規則第67条第12号、指示事項1-(3)での処分で『関与停止5年』となっている。
ちなみに、馬券購入が競馬法違反で有罪にならない限り、条例上の処分は調教若しくは騎乗の停止、戒告又は賞典停止なので、一番はわいろの収受となっている。
なお、この4名の中では吉井友彦元騎手のみが直近三年間にわいろの収受があったとして、刑事告発をしたと言われている。
第三者委員会の報告書をみると吉井元騎手については「情報提供の報酬という認識はなかった」とされているため、競馬法第32条の2での告発は無理筋ではないかと感じる。あえて告発するなら同第29条の1-(8)(地方競馬関係者の馬券売買の禁止)であるべきではないかと思う。
そもそも疑わしきは罰せずという意味では、わいろの収受での処分は無理筋で、あくまで馬券売買の禁止、つまり指示事項1-(3)での処分=騎乗停止・戒告・賞典停止が妥当なのではないだろうか?
続いて馬券購入を認めていないがわいろの収受と言われている三人についてみてみる。
池田敏樹元騎手と筒井勇介元騎手について、それぞれが情報提供の報酬という認識はなかったとされているので、これも普通に考えれば疑わしきは罰せずなのではないだろうか?きちんとやるのであれば、競馬法違反で告発し、その結果をもって規則第67条第15号の違反を問うべきで、筒井元騎手については告発したと発表されているが、これでもし競馬法違反がなかったと判断された場合には処分が撤回されるのか、甚だ疑問である。
厄介なのは。高木健元騎手で、「すぐ自らおかしいと感じて供与を断っている。」と証言しているので、これはそれまでは収賄の意思があったと受け取られても仕方ないのかな?とも思われる。
最後に井上調教師だが、そもそもなぜセクハラをここまで大々的に取り上げたのか?という部分で腑に落ちない。腑に落ちないなりに気になるのが、第三者委員会の報告書にある「なお、セクハラ被害申出を行った者、セクハラ行為を目撃した者らについて、殊更に井上調教師を陥れるための虚偽の供述をする動機は、当委員会における調査の限りにおいては認められなかった。」という一文である。
なにもなければ、わざわざこのような一文は入らない。普通はそのような事情を想定しないと思われるからだ。逆に言えば、井上調教師を陥れる状況が考えられたということではなかろうか?ほかの重大事案に関しては説明が多くはなされていないものの、このセクハラ事案についてのみは具体的な発言などがセンセーショナルに取り上げられており、普通に読むと強い違和感を覚える。
とはいえ、以前に誓約書を入れていることも含めセクハラ自体がなかったとは全く考えられず、昨今の情勢を考えれば厳しい処分が下されること自体には納得ができる。ただ、あくまでこの第三者委員会とは別の話で行うべきだったのではないか?
さて、ここからは、自らがインターネット上にある噂を元に、独自に調べていったものである。
尾島徹元調教師が第三者委員会に入っている弁護士が「不適格」なのではないか?としていた問題だが、これはどうやら、第三者委員会のある弁護士を指している者と思われる。そこで、関係者に聞き取りをしていった中、ある事件に行き当たった。
平成29年(ワ)第457号、平成29年(ワ)第516号事件で、今回処分を全く受けていない調教師が馬主を預託料の滞納で訴え、馬主から馬の売買で本来得てはいけないはずの利益を得ているのだから、それは不当利益で返還すべき、と訴えた裁判である。
既に結審しており、判決としては調教師の完全勝訴、預託料はきちんと払いなさい。馬の売買における「利益」は、あくまで間に入った家畜商の人からの「謝礼」だというものだ。
この際の調教師の代理人弁護士の一人が今回、第三者委員会に名を連ねている。
その上で、第三者委員会の報告書を読むと以下の様な文言が見受けられる
H調教師について
H調教師は、平成31年1月に岐阜南税務署の指摘を受けて修正申告をした。
H調教師は、平成25年から平成30年までの間にもらった馬主からの謝礼や自身の趣味に関する収益について、申告しなければならない収入との認識がなく、申告していなかった。
このH調教師が当該調教師であったかどうかの確証はないが、万が一にもこれが当該調教師であった場合、二つの理由から、第三者委員会は故意にこの事象を隠していたのではないかと疑われる。
第一に、本裁判で当該調教師は調教費用の入金と馬売買に関わる利益等の収入をそれぞれ同一銀行の別支店の口座で行っていたことが明らかで、このことは第三者委員会に入っている当時の代理人弁護士も当然知っていると思われるからである。
第二に、馬の売買について、金銭的には確かに謝礼という形で受け取っていたので違法性がないとしても(家畜商法上も慣例として謝礼という形はあり、直ちに違法ではないが、繰り返し受け取っている場合は業ではないかと指摘アリ)指示事項上は明確に違反となるからだ。
岐阜県地方競馬組合では
(22) きゅう舎関係者は、馬の売買およびその斡旋等、家畜商とまぎわらしい行為をしてはならない。
と指示事項に記載しており、斡旋した時点でアウトとなる。
裁判でも当該調教師が一時限定免許となっていた旨、本人の口から述べられているが、結審後処分が行われた様子は見られず不自然と言わざるを得ない。
また、当該調教師の馬の売買斡旋については、この裁判に関わった馬主以外の馬主からも第三者委員会に訴えをしたと聞いているため、これらを黙殺したのであれば、第三者委員会は機能不全に陥っていると言わざるを得ないのではないか?
ところで、5月11日に岐阜県調騎会が謝罪文(?)を出した際には会長が加藤幸保調教師となっていたのだが、5月20日のNHKのニュースでは後藤正義調教師に代わっていたようだが、年度末でもないこの時期に急なことで大変驚いている。
にわかに騒がれている名義貸し問題などが遠因ではないと信じているのだが。
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