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笠松競馬における第三者委員会とは一体なんだったのか?

昨今、企業内で不祥事や違法行為が行われると第三者委員会なるものが設置されることが一般的になってきた。
この第三者委員会とは一体どんなものだろうか?

すでに10年以上前、2010年に日本弁護士連合会が「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」を策定しているので紹介しつつ、笠松競馬において第三者委員会にかけられた疑義について触れていこうと思う。

まず、第三者委員会というのがどういうものなのかを、引用を踏まえつつ見ていきたい。

本ガイドラインが対象とする第三者委員会(以下、「第三者委員会」という)とは、企業や組織(以下、「企業等」という)において、犯罪行為、法令違反、社会的非難を招くような不正・不適切な行為等(以下、「不祥事」という)が発生した場合及び発生が疑われる場合において、企業等から独立した委員のみをもって構成され、徹底した調査を実施した上で、専門家としての知見と経験に基づいて原因を分析し、必要に応じて具体的な再発防止
策等を提言するタイプの委員会である。
第三者委員会は、すべてのステークホルダーのために調査を実施し、その結果をステークホルダーに公表することで、最終的には企業等の信頼と持続可能性を回復することを目的とする

第三者委員会というのは組織が勝手に依頼して立ち上げるものなので、特に法的な根拠があるわけではない。また、この文章もあくまでガイドラインであって、なにかを拘束するものではない。
笠松競馬の場合、ステークホルダーというのは少し難しいが、公営競技である以上直接のステークホルダーである岐阜県、岐南町、笠松町に対してはもちろん、一般の社会に対しても責任ある調査、公開をしなければならないと考えられる。
そして、今回の第三者委員会では、当然笠松競馬の信頼と持続可能性を回復することを目的としていたはずである。

第三者委員会の活動については
 1.不祥事に関連する事実の調査、認定、評価
 2.説明責任
 3.提言
とに分けてまとめられている。

調査、認定、評価については以下のように書かれている。

(1)調査対象とする事実(調査スコープ)
第三者委員会の調査対象は、第一次的には不祥事を構成する事実関係であるが、それに止まらず、不祥事の経緯、動機、背景及び類似案件の存否、さらに当該不祥事を生じさせた内部統制、コンプライアンス、ガバナンス上の問題点、企業風土等にも及ぶ

内部統制やコンプライアンス、企業風土という意味で、今回第三者委員会が十二分に調査ができていたかについて、過去にも見過ごされた案件についての言及や、周辺事情、特に馬主との関係などについて触れられていない点などからも不十分だったのではないかと感じる。

(2)事実認定
調査に基づく事実認定の権限は第三者委員会のみに属する。
第三者委員会は、証拠に基づいた客観的な事実認定を行う。

事実認定については、どのような調査が行われたのかが明確には開示されず、どのような証拠が提示されていたのかもわからない以上評価のしようがない。

(3)事実の評価、原因分析
第三者委員会は、認定された事実の評価を行い、不祥事の原因を分析する。
事実の評価と原因分析は、法的責任の観点に限定されず、自主規制機関の規則やガイドライン、企業の社会的責任(CSR)、企業倫理等の観点から行われる*。

*第三者委員会は関係者の法的責任追及を直接の目的にする委員会ではない。関係者の法的責任追及を目的とする委員会とは別組織とすべき場合が多いであろう。

笠松競馬の第三者委員会の目的について、報告書には以下のように記されている。

2 当委員会の目的
当委員会は、笠松競馬所属の調教師・騎手等による所得税申告漏れ事案の
ほか、競馬法違反行為等の有無について、
真相の究明を図るとともに、再発
防止策等の検討を行うことを目的とするものである。

つまり、所得税申告漏れなど「お金の問題」と競馬法違反行為について、法的責任の観点だけではなく、規則やガイドライン、社会的責任、企業倫理等の観点からも評価、分析しなければならなかったと考えるべきである。

I 調教師のセクハラ問題を大々的に取り上げたくらいなので、この第三者委員会がかなり広範に調査をするべきだと考えていたのは疑いようがない。また、規則やガイドライン違反についても、触れるべきであったのは間違いないにもかかわらず、ある騎手の岐阜県地方競馬組合地方競馬実施条例施行規則第72条1項第9号(競馬の公正を害し、若しくは害しようとし、又は競争に支障を生じさせた)違反に触れなかった点のみを見ても、機能不全であったことは疑いようがないと感じる。

さて、最初のnoteの最後に触れたある調教師の馬喰行為(指示事項違反)に関する裁判に関わった弁護士が今回の第三者委員会に名を連ねている問題で、利益相反行為に当たるのではないかと懲戒請求をしていた者がおり、岐阜県弁護士会綱紀委員会がそれに対する決定をしたとのことで、その資料を目にすることができたので触れたいと思う。

結論から、この弁護士が第三者委員会に名を連ねることは問題がないというものだが、その理由がとてもふるっている。

利益相反の有無について
 令和3年3月31日付で第三者委員会が公表した「笠松競馬における不適切な事案に関する報告書」によれば、馬券購入に関係しない所得を修正申告した者が全部で8人いたとされるが、懲戒請求者が主張するような競走馬の売却益の申告漏れを指摘されたものは1人もいなかった。
 それゆえ、第三者委員会において、実際に本件訴訟で問題となった競走馬の売買に関し、その売却益の申告漏れについて調査されたものと認めることはできない。
 よって、第三者委員会で〇〇調教師の競争馬の売却益の申告漏れについて調査がなされていることを前提とする懲戒請求者の首長は、そもそもその前提を書いており、採用しえない。
 以上より△△弁護士について非行となるべき利益相反行為自体認められない。

分かりやすく言うと、○○調教師の競走馬の売却益については調査してないみたいだから、△△弁護士が関わっていても問題ないよ。ということである。
普通に考えたら、何がおかしいのかわかるだろう。△△弁護士が関わっているから○○調教師の競走馬の売却益について調査しなかったのではないか?という疑義について、そもそも調査してないから関わっても問題ないでしょ?と答えてきているのだ。

懲戒請求者を存じ上げないのでその方がどう思ったか、そしてどういう行動に出たのかは知らないが、この文章の原文が表に出ることがあれば、そもそも第三者委員会とはなんだったのか?そしてそのメンバーが中心となっている運営監視委員会が果たして運営を監視できるのかという以前のnoteでも取り上げた内容が、もっとわかりやすくなるのではないかと思っている。

さて、大きく脱線してしまったが、第三者委員会の性質についての話に戻ろう。

第三者委員会というのはその名の通り「第三者」でなくてはならない。
そこで、ガイドラインでは以下のようにまとめられている。

第三者委員会の独立性、中立性
第三者委員会は、依頼の形式にかかわらず、企業等から独立した立場で、企業等のステークホルダーのために、中立・公正で客観的な調査を行う。

より細かくは、
1.起案権の専属
2.調査報告書の記載内容
3.調査報告書の事前非開示
4.資料等の処分権
5.利害関係
に分けられる。

起案権の専属は当然であるが、記載内容については企業などの現在の経営陣に不利となる場合であっても、調査報告書に記載する。となっており、また、事前非公開も、他の人の手が入らないようにするため=第三者という立場を担保するために行われている者と思われる。
また、利害関係については以下のようにまとめられている。

5.利害関係
企業等と利害関係を有する者*は、委員に就任することができない。

*顧問弁護士は、「利害関係を有する者」に該当する。企業等の業務を受任したことがある弁護士や社外役員については、直ちに「利害関係を有する者」に該当するものではなく、ケース・バイ・ケースで判断されることになろう。なお、調査報告書には、委員の企業等との関係性を記載して、ステークホルダーによる評価の対象とすべきであろう。

先に述べた例で言えば△△弁護士については、○○調教師の馬喰行為について弁護した過去があることを記載すべきだったのではないだろうか?というのはとても底意地の悪い捉え方だが、第三者委員会に属する税理士の方の中には関係者を担当する税理士もいたと聞いているので、この利害関係についても、(調査に影響したかどうかはともかくとして)公表すべきだったのではなかろうか。

本ガイドラインには、これらに加えて自主申告者に対する処置についてなど、何点か今回のケースに当てはめた際に疑問を感じる部分はあるが、最後に記されているガイドラインの性質を引用する。

5.本ガイドラインの性質
本ガイドラインは、第三者委員会の目的を達成するために必要と考えられる事項について、現時点におけるベスト・プラクティスを示したものであり、日本弁護士連合会の会員を拘束するものではない。
なお、本ガイドラインの全部又は一部が、適宜、内部調査委員会に準用されることも期待される。

つまり、別にあくまでガイドラインだから好きにしていい、という話ではある。なので、今まで述べてきた疑義についても「問題がある」と断言できるものではない。
ただ、現実問題としてこのような第三者委員会から派生した運営監視委員会を擁している状態で、果たして笠松競馬は復活できるのだろうか?

笠松競馬は廃止してしまえという声が最近は強くなってきている感じを受ける。さらには現場でも、他場への移籍を考える人が出てきていると漏れ聞こえてくる。
笠松競馬場は1935年に作られた歴史ある競馬場だ。(名古屋競馬は1949年)オグリキャップを輩出したとして有名だが、ライデンリーダーやラブミーチャンの出身地である。善し悪しの判断は別として、競走馬が街中を歩いてやってくる稀有なスポットでもある。一ファンとして、このままなくすのはあまりにも惜しいと思う。そして、存続させるために絶対に必要なのは膿を出し切ったクリーンな環境だ。それができるよう、管理者には思い切った決断を切に求める。

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