【ポケモンSV】カキツバタの目的のはなし


1.はじめに

 クッソだらしなくてしょーもなくて腹も読めなくてでホンマいい性格してやがるくせになんかどうも憎めない、そんなコイツの言動の真意を知りたい──筆者がこの文章を記す動機である。
 この文章は、カキツバタ視点における本編の言動、彼の背景の二つに分けて考えるものである。
文中に、あらゆるキャラクターの言動に対して否定的な発言も出てくることをご留意いただきたい。
 また、カキツバタの性格については
・邪悪ではないが良いとは手放しに言えない
・「いい性格」をしている
と認識している前提の論であることも念頭に置いていただきたい。
 また、本論は日本語版のプレイ体験で構成されており、海外版のものは含まない。

2.藍の円盤本編 ~カキツバタ視点での言動と彼にまつわる証言~

 彼の目的は二つある。スグリを止めること、リーグ部の雰囲気を元に戻すこと。
 しかし、カキツバタはすでにスグリに敗北しており、自分の力では現状を打破できないと考えた。そのため、ブルーベリー学園に来る留学生を取り込もうと行動を起こす──が本編の流れだ。
 彼が現在持ち得てる情報は、「スグリの変貌は林間学校を経てから」くらいだろう。しかし、センタースクエアでの遭遇の際、ゼイユが自分の友人と紹介した瞬間に、スグリの友人だろう?と断定気味に話に割り込んできていることから、もう少しだけ踏み込んだ事情を得ている可能性はある。
 ゼイユはリーグ部になかなか顔を出せず、林間学校後はブライアのサポートであちこちの地方を飛び回っており、先述の通りカキツバタには、スグリの友人でもあると紹介はしていない。ゼイユ自身もカキツバタのことは信用しておらず、彼女から積極的にスグリの事情について話すとは考えにくい。
 そのため、カキツバタの中では「自分ではどうにもできないから、誰か外部の人間にスグリをどうにかしてもらうしかない。ちょうどいいことに留学生が来る。しかもゼイユと面識があるから、スグリともあるだろう。主人公とスグリをバトルさせれば何かあるかもしれない」という程度の仮説が立っていた。
 だからこそ、モノで釣り、部室で釣り、食堂という衆目の前で四天王・チャンピオンを含めた会議を開き、あの手この手で主人公にブルベリーグへ参加させようとする。強さを求め、部内に敵無しのスグリがそれに賛同するのも見越してだ。
 そして、行く先でバトルを見学しては主人公の腕前を確認し、その才能がスグリの変化の要因であると推測した旨の台詞を発言していることから、前述のカキツバタの仮説の根拠をにおわせている。
 彼の青写真はこうだろうう。身を削ってでも勝利を渇望していたスグリは、才能を持つ主人公に負ける。自分はスグリに「元チャンピオン」になったことを自覚させ、勝てなくともバトルを楽しんでいた昔のようにやろうと諭す──しかし、スグリの状態はカキツバタの予想よりも深刻だった。主人公に負けたスグリは負けを認めない。ここでカキツバタは「はい?」と反応していることから、カキツバタの目論見は完全に外れたと推測できる。
 先述のとおり、スグリが強さを求めている真の理由は、彼には持ち得ぬ情報だっただろう。
 スグリは元来強さへの憧れがあり、その強さの体現である鬼さま=伝説のポケモンに興味があった。主人公のコライドン/ミライドンに対し、主人公が強いから伝説のポケモンも仲間になった、と認識している。
 主人公とゼイユの内緒話をきっかけに仲間外れにされたと認識し、拗れに拗れつつもともっこ騒動を追い、ついにはオーガポンは「強い」主人公を選ぶ。(しかも、スグリや主人公たちは知ることができないが、オーガポンのためを思って取ったはずの行動は彼女の心に響いていなかった。オーガポンを奮い立たせる思い出にスグリの存在はなかったからだ。)そして、オーガポンに選ばれなかった事実と主人公への敗北が彼を変貌させ、力への固執に繋がる。
 力が伝説のポケモンを従えることならば、伝説のポケモンを従えることは力である。伝説のポケモンが眠るエリアゼロ深部への探索にスグリが乗り気で、テラパゴスを捕まえようと必死だったのも主人公に勝ちたいからにほかならない。
 カキツバタがエリアゼロ探索についてこなかった理由は、本当に面倒くさかったのも、スグリ体制陥落後のリーグ部の後始末が必要であることも事実なのだろうが、今度こそスグリのケアは自分に出来ないと判断したからだろう。
 そもそもカキツバタはスグリの動機を読み違えていた。カキツバタは主人公を利用することで「自分が」スグリに干渉しようとしていたが、それが外れた以上、真の意味で主人公に任せるほかなかった。
 スグリの「伝説のポケモン」への反応を見たカキツバタが「伝説、ねえ……」と含みを持たせた発言をしているのは、己の根本的な失策を確信したからといえよう。

3.背景 ~現状で推測するアイリスとの関係とカキツバタの見せる「本音」~

 さて、上記はあくまでも、『藍の円盤』で描写される、彼の言動のロジックである。
 今までカキツバタというキャラクターの言動を語る際に、筆者が意図的に外していたことがある。「カキツバタはシャガの孫である」という設定だ。モブや特別講師のハッサクとの特殊会話より明かされるこの設定は、ブラック・ホワイト(以後BW)に関連しているからだ。
 当然、BWの時代にカキツバタというキャラクターは存在せず、BWはリメイクをされていないことから、リメイクの際に、第九世代(スカーレット・バイオレット)に即した設定が追加される可能性は十分にある。現在のBWの設定では、カキツバタの言動に「今は」確実性を得られないのだ。
 しかし、あえてここで背景に触れるのは、カキツバタの動機はBWにおけるアイリスの存在を踏まえなければ読みにくいからだ。
 アイリスはシャガに見出され、幼いながらもジムリーダー(ホワイト版)とイッシュチャンピオン(BW2)になった強者だ。彼女はポケモンバトルを楽しんだ上で、その強さを示している。
 そんな彼女と何らかの関わりがあると目されるカキツバタの「バトルは楽しむもの」というスタンスは、腹の読みにくい彼の言動の中でも本音といえる発言であろう。
 主人公をスグリにけしかけようとしつつも易々とクリアさせてくれるわけではなく、「手を抜いたら自分が楽しくない」と勝負を仕掛けてくる。また、昔のスグリがバトルを楽しんでいたことを知っており、今の変貌した彼については不快感を表している。
 一方、彼は自身を「楽することに慣れてしまった」と言っていることから、現状の彼はスグリのような、吐いてまでの努力を放棄していると認識されてもおかしくはない。楽しむもの、というスタンスは、ある種の逃げとも言えよう。
 しかし、彼の本音が「バトルは楽しむもの」であることに変わりはない。その結論に至る過程が、憧憬だろうが、事実に打ちのめされた悟りだろうが、逃げだろうが同じなのだ。
 そして、ブルベリーグチャンピオンという肩書きは、彼自身が自分からチャンピオンを名乗っていないことから、執着していないと考えられる。彼が己の名声のためだけに今回の騒動をけしかけた線は薄くなる──番外編で明かされる通り、スグリへの意趣返しも多少は含まれているだろうが。

4.結論

 以上から、カキツバタの動機の「スグリを止めたい」「リーグ部の雰囲気を元に戻したい」ということは彼の真意であるのは間違いないと言える。
 彼の言動の是非をあえてここでは断定しないが、彼のロジックは合理的で一貫していても、実際に周囲の人物やプレイヤーからの心証は良いとは言えない。アカマツは「嫌われ役をしていると本当に嫌われる」とカキツバタを評していているが、アカマツが危惧しているとおりの事象が起きている。本意や事情がどうであれ、起こした物事によって他人の受ける印象は変わらないし、否定することはできないのだ。

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