黒い目の子ども3:まるで
男は一度立ち止まった。
背後の男の子は自分に話かけてきているのか…?
それともスマホで通話しているのか…?
というより、今は夜中の1時前。
こんな時間になぜ男の子が出歩いているんだ…?
そんなことを考えているとますます気味が悪くなってきた。
これはやばいかもしれない。
男は本能的にそう判断して背後を振り向かずに再び歩き出した。
男の子の足音もそれに続く。
そして一言。
「その弁当、美味しそうだね」
ここで男は確信し、歩みを止めた。
自分に話しかけているのだ。
駅の近くのコンビニで買った牛カルビ弁当。
温めてもらったので、ほのかに美味しい匂いがしていた。
男の子は言葉を続ける。
「なんでこっち向いてくれないの?別にあなたのことを傷つけようなんてしてないよ。聞きたいことがあるだけ」
その言葉遣いはどことなく子どもとは思えないものだった。
と同時に、男の警戒心を少しだけ解いた。
「…こんな時間に何してるの?家に戻らないと家族が心配するよ」
男は戸惑いながらも背を向けたまま話かけた。
「僕、お母さんしか知らないんだ。だから、お父さんを探してる。それで、いろんな人に話しかけて手掛かりを集めてるの」
そう言うと、男の子は小走りで前に回り込んだ。
「お父さんの名前は「ユウト」って言うんだけど、あなたは知らない?」
男は急に回り込まれたので驚いたが、見た目は普通の男の子だった。
小学4年生くらいで色白だ。
「…ユウト?苗字は?」
「わからない。あの人、私の前から急に姿を消しちゃったから」
「?…あの人ってお父さんのこと?君はお父さんと会ったことないんじゃないの?」
「うん」
訳がわからない。
男の子は自分の父親に会ったことがないのに、あたかも会ったかのような話し方をしている。
しかも「あの人」「私」など、言葉遣いもまるでその父親の妻のようだ。
いずれにしてもこの子の両親は何か事情があって決別したことは間違いないらしい。
※この物語はフィクションです。あと、不定期です。
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