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クロミミ(黒見千 くろみゆき)
2020年5月11日 17:04
***陵からメールがあったのは、新学期が始まって数日が経った日の夜だった。それは陵からの初めてのメールだった。海に行く前に陵とはメールアドレスを交換していたけれど、メールのやりとり自体はしたことが無かった。短いメールだった。「愛花へ。久しぶり。夕凪、昨日退院して明日から学校来るらしいです。一応知らせといた方がいいかと思って。昨日退院前に会いにいってみたけど元気そうだったよ」「夕凪」という名前
2020年5月9日 09:21
第二章 嵐の日には わたしが浜辺で発見されたその日から予報外れに天気が崩れ、退院し学校に行く頃には嵐が街を襲った。陸に帰ってきてからずっと、とめどない雨音がBGMのように耳元で囁いている。 雨は好きだった。雨は満たしてくれる。何も考えず、ただ雨を感じることだけにすべての感覚を使う。よく雨が降っている日には、窓を開けたままにして外を眺めていた。その方が雨のすべてを受け取ることができるから
2020年5月8日 12:43
第零話 プロローグあれからもう随分と永いあいだここにいるような気がしている。いまが一体いつなのか、もうわからない。それほど時間が経ったのだ。あの時から。すべてを曖昧にさせるほどの永い、永い時が。わからないことだらけだ。私は誰なのか。私の名前はなにか。私を知っている人はいるのか。そして、私は生きているのか。ここに来る前に私は多くのものを失ったように思う。失ったものについて考え