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EURO2020 クロス分析(2)

 前回の記事を公開した後、僕がインターンをしているツエーゲン金沢の方からいくつかアドバイスをいただいたので、それを元に以下の3つの項目について、手元にあるデータから追加で調べた(新たにデータを集める気力はありませんでした…)。

①PA内の攻撃側と守備側の人数の差と、ゴールにつながったクロスの関係について。

②コーナーとハーフスペースにおける、左右での成功率とゴール率の違いについて。

③サイドレーン(コーナーとウイング)をさらに縦に2分割したときの、アウトサイドレーンからのクロスについて。

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①PA内の攻撃側と守備側の人数の差と、ゴールにつながったクロスの関係について

 まずは、「守備側の人数-攻撃側の人数」で求めた人数差とクロスの回数の関係から見ていく。

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 「-1」は攻撃側が1人数的優位の状況であったことを表している。平均値は2.2最頻値と中央値はともに2であった。次に、人数差とゴール数の関係について見ていく。上の図が各人数差におけるゴール数、下の図が各人数差におけるゴールの割合についてのグラフである。

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 ゴール数が52しかないのでサンプル数として十分だとは思わないが、人数差が「0,1,2,4,6」のときにクロスがゴールに至った割合は5.3%~6.1%という極めて小さい幅に収まっていることから、人数差がクロスのゴール率に与える影響は大きくないと考えることができるかもしれない。

 しかし、サンプルのゴール数が少ないため、数点の差で大きく割合が変化してしまう。そこで、人数差が「-1」の時と「7」の時はクロス数が少なく、それぞれ1ゴールで33.3%,100.0%の変化をするので参考にはならないと考え、人数差が「0~6」の時に、「4」と「6」の時の値が例外的に高い値をとっているのか、「3」と「5」の時の値が例外的に低い値をとっているのかについて考える。

 まず、「4」と「6」について考えると、「6」のときに生まれたゴールは1得点のみであるため、この得点が入っていなければゴール率は0%となる( イングランドのチェコ戦のゴール)。また「4」の時も、1得点少ないと4.4%、2得点少ないと3.5%、3得点少ないと2.7%となる。これらから、少なくて2得点、多くても4得点違うだけで「3人以上の差ではゴールの確率がグッと下がる」という真逆の結論になっていた可能性がある。

 また、「3」と「5」について考えると、「3」の時に5.3%~6.1%の幅に収まるためにはさらに6得点多く生まれている必要があり、また「5」の時では3得点必要とする(2得点では4.2%、3得点では6.3%)ため、「クロスからゴールが生まれる確率は人数差に影響を受けない」という結果になるには9得点必要となる。

 これらから、今回のデータでは人数差が「4」と「6」の時に例外的に高い値になっていると推測することができ、「人数差がクロスのゴール率に与える影響は大きくない」と結論づけることはできないと考える。


②コーナーとハーフスペースにおける、左右での成功率とゴール率の違いについて

 前回のnoteでは各エリアのデータを左右でまとめているが、実際は左右でかなり特徴的な差を示すエリアがあった。

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 上の2つの図からわかるように、コーナーとハーフスペースにおいて左の方が右と比べて成功率とゴール率がかなり高くなっていることがわかる。成功率に関しては10%以上、ゴール率に関しては2倍近くの差が生まれているが、この原因として初めは「今大会でのプレーヤーの質の差」と考えていた。しかし、「右利きの選手が多い中、左では持ち替えてのインスイングが多くなることが影響しているのでは」というアドバイスを頂いたので、実際に調べた。

 まず、インスイングとアウトスイングの差がクロスの成功率に与える影響について考えてみる。

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 図のように、アウトスイングのボールはニアのDFの頭上を超えるボールになるのでクリアされやすく、インスイングの場合はそのニアのDFを避けるような軌道になるため成功率が高くなる可能性が高い。今回は全クロスを振り返る気力はなかったので、ゴールに結びついたクロスに限ってコーナーとハーフスペースからのクロスを「インスイング、アウトスイング、ストレート」の3種類に分類してみた。

 まずはコーナーから見ていく。右のコーナーからゴールにつながったクロスは3本で、そのうち3本とも右足のアウトスイングであり、左のコーナーからのクロスは5本のうち3本が左足のアウトスイングで、残りの2本のクロスはインスイングとストレートだった。

 次にハーフスペースを見ていく。右のハーフスペースからのクロスは2本中2本がストレートなのに対し、左のハーフスペースからのクロスは5本中3本がストレート残る2本が右足のインスイングだった。ハーフスペースからアウトスイングでゴールに至ったクロスは1本もなく、左からはインスイングで2ゴールを生み出している。

 もちろん、対象のクロス数が少ないことは前提として、コーナーでは左サイドにおけるインスイングの優位性はなく、ハーフスペースでは左サイドから右足でのインスイングの優位性が見られた

 次に、プレーヤーの質の差についてEURO公式が公表している「クロス成功数」をもとに見ていく。

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 クロス成功数が多い上位10人のうち、左サイドを起点にしている選手は6人、右が3人、中央が1人という結果になった。また、上位4人は全員左サイドの選手であり、少なからず選手の質が左右でのクロスの成功率、ゴール率の差につながっていたと考えることができる。 


③サイドレーン(コーナーとウイング)をさらに縦に2分割したときの、アウトサイドレーンからのクロスについて

 最後に、アウトサイドからのクロスについて見ていく。サイドをさらに分割した外側のレーンからのクロスの成功率はグッと下がるという研究があるらしく、EUROで生まれたアウトサイドからの5ゴールについて調べてみた。

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 この5ゴールのうち、DFラインの背後へのクロスが2つ中央での競り合い大外からの折り返しコーナーからインスイングでのゴールが1つずつという結果になった。

 アウトサイドからのクロスのデメリットとして「中までの到達時間が長い」というものがある。これによりDFが落下地点に入りやすくなったり、攻撃側が瞬間的にマークを外しづらくなる。これはフィジカルコンタクトの増加につながり、攻撃側はフリーでのシュートチャンスを作れず、ゴールの確率が下がるものだと考えられる。

 しかし、中央での競り合いを制したレヴァンドフスキ(vsスペイン)といった個の力や、大外という攻撃側優位での競り合いインスイングでニアのDFを迂回したところに到達時間の長さを逆手にとって遠くから飛び込んで合わせる、といったところから3つのゴールが生まれた。

 また、2ゴールを生み出したウイングの位置からDFラインの背後へのクロスは、たとえアウトサイドのレーンからであっても成功率やゴール率が高いものである可能性が高い。

 これらから、アウトサイドからのクロスではDF優位の状況を跳ね除ける個の力や工夫、またはDFラインの背後を狙うことが必要になってくると考えられる。


最後に

 追加の調査では、サンプル数の少なさから正確な結論を導くところまではできなかった。今回のクロス分析は全体的に十分な量と質のデータを集められなかったところが一番の反省点なので、客観性をできる限り高く保ちながら、サッカーという複雑なものをより正確に分析するために必要最低限の主観性を取り入れてより良い定義を立てられるようにしたい。

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