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MAD LIFE 056

4.殺しのリズムに合わせて(11)

5(承前)

『あんたの奥さんを誘拐した』
 ……小池だ。
 洋樹は下唇を強く噛んだ。
 あいつら、なんのつもりで由利子を?
『明日の午後八時までに三千万円用意しろ。警察にはいうな。連絡はまたあとでする』
「おい。ちょっと待――」
 洋樹が全部いい終わらないうちに、電話は一方的に切られた。
 受話器を握りしめたまま、呆然と虚空を見上げる。
 長崎め……なにを考えているんだ?

 中西は洋樹と瞳のことが心配でならなかった。
 洋樹は瞳をうまく説得できただろうか?
 警察にすべてを打ち上げることに、瞳は納得しただろうか?
 居ても立ってもいられなくなり、中西は瞳のアパートに向かった。
 午後七時。
 瞳の部屋のドアを軽くノックする。
 応答はない。
「……瞳ちゃん?」
 ノブを回し、瞳の名を呼ぶ。
 部屋の中を覗きこんだ中西は、室内の惨状に目を疑った。
 一体、どういうことだ?
 瞳ちゃんは? 春日さんは?
 床に転がっていた紙くずを見つける。
 それを拾いあげ、しわを伸ばした。
「長崎め……なんてしつこい奴なんだ」
 中西は部屋を飛び出すと、近くの電話ボックスに駆けこんだ。

 午後七時半。
 見るからにガラの悪そうな男たちが、ひとつの部屋に集まっていた。
「どうしましょう? 長崎さん」

(1985年10月7日執筆)

つづく


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