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1996ベストミステリを語る 02

大活躍の東野圭吾(96 11/27)

「じゃあ、早速、アンケートを見ていきましょう。一番最初に届いたアンケートはOさんから。どうもありがとねぇ」
「Oさんって、東野圭吾ファン倶楽部のメンバーよね」
「そそ」
「じゃ、今年のベストもやっぱり東野圭吾?」
「あう。『どちらかが彼女を殺した』をベストに挙げてますね。コメントもついてます。『ベストミステリはとりあえずのものだ。うっきょ~とか、いぃ、いぃ~つうのが取り敢えず出てこない』以上」
「本を読み終えたあとの感想が『うっきょ~』っていうのは、どういう感情を表すのかあたしにはよく分からないんだけど……」
「私にも分かりません。ただの馬鹿でしょう、こいつは。次、行きましょう、次。同じく東野圭吾ファン倶楽部のメンバー、Hさんも『どちらかが彼女を殺した』をベストに挙げてますね」
「やっぱり東野ファンは東野作品をベストに挙げてしまうのかしら?」
「あ、でもね。誤解なきように言っておきますけど、東野倶楽部のメンバーって、結構シビアっていうか、溲瓶を持ったアフリカ象っていうか、つまらないものはつまらないってはっきり言う連中なんですよ。おいら、いつもいじめられてるもん。東野圭吾の作品に関しては、ありきたりのものじゃ満足できないって人が集まっているんです。だからどちらかって言うと評価は辛いんですよ」
「溲瓶を持ったアフリカ象?」
「自分で言ってつまらないと思ったんだから、さらりと流せ、さらりと」
「……ってことは『どちらかが彼女を殺した』は、世間一般的にも評価が高いってこと?」
「世間のことは知らないけど、少なくとも今年は東野圭吾にとって特別な年になったと思いますよ。出版点数も多いし、そのどれもが話題になってる。評論家の茶木さんも『小説推理』のエッセイの中で、東野圭吾を今年一番活躍した作家だと述べていたしね」
「具体的には、今年、どんな作品が出たのかしら?」
「純粋に1996年の新刊としては、『名探偵の掟』『どちらかが彼女を殺した』『毒笑小説』『悪意』『名探偵の呪縛』の5作だね。でも『このミステリーがすごい(以下、『このミス』)』なんかの対象作としては、昨年末に発売された『天空の蜂』『怪笑小説』も追加されるね。そうすると7作だ。ま、『毒笑』『怪笑』の二作はミステリとは呼べないから省くとしても、残り5作、ね、ね、どれも傑作でしょ」
「その中でもやっぱり、『どちらかが彼女を殺した』が一歩抜きに出てるのかしら?」
「確かに、『どちらかが彼女を殺した』の反響は、僕の周りでもすごかったね。あの作品のネタばれ会議をオンライン上で行っていたんだけど、会議室を閉じたあとも、『そのときのログを送ってください』ってメールが山のように……オーバーじゃないよ、おそらく百通近く来たからね。あれには僕もびっくりした」
「それだけ他人の意見を聞きたくなる作品なわけね」
「うん。あの本を読み終わったときは、つくづく通信をやっていてよかったと思ったもの。周りにミステリ小説ファンがいない人は、いまだに悶々としているかもね」
「じゃあ、やっぱり『どちらかが彼女を殺した』が東野作品の中では今年のベストなわけね」
「うぅん。そうとも言えないよ。アンケートに戻るけど、MMさんは『名探偵の掟』をベストに選んでいるしね。ちなみにこの方、折原一ファンだそうです。コメントが『好きな作家さんは折原一さん(『倒錯の死角』は最高)。でも最近ちょっとダウン気味かな?』ってことで、その意見には僕も全面的に賛成。折原さんのことも、機会があったら喋りましょう」
「巷の噂では、『名探偵の掟』が『このミス』のかなり上位に食い込んでいるらしいわね」
「うん。あと、『天空の蜂』は去年の出版だから、ずいぶんインパクトが減っちゃったけど、傑作だと思うし。『吉川英治文学新人賞』の候補にもなったしね。『ホワイトアウト』とぶつかったものだから、惜しくも落選しちゃったけど」
「あのさ、あのさ、『このミス』では毎年、作家別の人気ランキングも出てくるじゃない。ひょっとしたら、それでは一位を狙えるんじゃないの?」
「うっす。断言しよう。今年の作家別ランキング、東野圭吾は一位だぁぁ!」
「違ったらどうする?」
「ホームページにケツの写真をアップしよう。ぷりんぷりん。ぷりんぷりんぷりん」
「……いつもやってることじゃない」

解説

~東野圭吾ファン倶楽部~
 NIFTY-SERVE「推理小説フォーラム・テーマ館」(FSUIRIT)で活動している東野圭吾公認(?)のファンクラブ。ちなみに部長は容姿端麗(笑)。「毒笑小説」の中には、このクラブのメンバーが出演していたりする。

~どちらかが彼女を殺した~
 「どちらかが彼女を殺した」(東野圭吾*講談社ノベルス)
 「卒業」「眠りの森」に登場した人気キャラ加賀君がカンバック。妹を殺されて復讐に燃える男に立ち向かっていく。あっと驚く(?)結末に、もう一度読み直す読者が続出した……らしい。

~名探偵の掟~
 「名探偵の掟」(東野圭吾*講談社)
 本格推理を皮肉ったユーモア短編集。短編集だが、全体で一本の長編にもなっている。とにかく笑える。お薦め、お薦め。

~毒笑小説~
 「毒笑小説」(東野圭吾*集英社)
 あえてミステリにはこだわっていないユーモア短編小説集。

~悪意~
 「悪意」(東野圭吾*双葉社)
 加賀刑事の教師時代を垣間見ることができるファンにはたまらない一冊。犯人は中盤で明らかになり、あとは動機解明が物語の核となる。

~名探偵の呪縛~
 「名探偵の呪縛」(東野圭吾*講談社文庫)
 「名探偵の掟」の続編。今度は長編である。一人の作家が本格推理という概念のない世界に飛び込んでしまうファンタジー(っていうと語弊があるけど)。

~このミステリーがすごい!~
 宝島社が年末に出版している「ミステリ&エンターテイメント」のベスト本。なぜか毎年、冒険小説が1位を獲得してしまう。ちなみに去年の国内ベスト1は真保裕一の「ホワイトアウト」。

~天空の蜂~
 「天空の蜂」(東野圭吾*講談社)
 原子力発電所の上にヘリコプターを墜落させるという脅迫。日本中がパニックに揺れる。綿密に取材をして描かれた意欲作。明らかに「もんじゅ」を意識して書かれているのだが、この作品が発表された直後、「もんじゅ」の事故が起こったのは驚くべき事実。

~怪笑小説~
 ユーモア短編小説集。
 「怪笑小説」(東野圭吾*講談社)

~倒錯の死角~
 「倒錯の死角」(折原一*創元推理文庫)
 折原一の長編第1作。のぞき魔が見た悪夢とは……。個人的には「倒錯のロンド」の方が好き。

~吉川英治文学新人賞~
 吉川英治の作品は読んだことないけど、要するにそういう賞があるんだな。で、なぜかミステリがよく受賞する。今年の受賞作は真保裕一の「ホワイトアウト」と、鈴木光司の「らせん」。

~ホワイトアウト~
 「ホワイトアウト」(真保裕一*新潮社)
 厳寒期の雪山と闘う主人公。雪山版「ダイ・ハード」とも評価された。


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