MAD LIFE 350
24.それぞれの行動(1)
1
『富岡! 応答してくれ!』
無線機から中部の声が聞こえてくる。
富岡の運転するパトカーには、同僚の警察官以外に浩次、瞳、そして江利子が同乗していた。
「どうしたんだろう?」
富岡はそう口にしながら、受信機を手に取った。
「はい、富岡です」
『例の誘拐事件だが、たった今、犯人から身代金の受け渡し場所の指示があった』
中部が早口でいう。
『いまからそのときの会話を録音したテープを再生するから聞いてくれ』
中部に代わって、中年男のだみ声が車内に響き渡る。
『金の受け渡し場所をいう』
「あ――」
浩次が小さく漏らした声を、富岡は聞き逃さなかった。
『今夜一時、旧埠頭の十一番倉庫へ来い』
この声は……。
浩次は動揺していた。
パトカーは警察署に向かって走り続けている。
『ああ、そうだ。おまえ、ひとりで来いよ』
奇妙な咳払い。
そこで音声は唐突に途切れた。
『やり取りは以上だ』
再び中部の声が聞こえてくる。
『今、八時二十七分……指定の時刻まであと四時間半しかない』
(1986年7月28日執筆)
つづく
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