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MAD LIFE 348

23.一難去ってもまだ一難(14)

6(承前)

「小崎さん」
 中部はテーブルの上の札束に目をやりいった。
「本当にこの金を使っていいんですか?」
「娘の命には代えられません」
「でも、この八千万円は会社の――」
「いいんです」
 眉間にしわを寄せながら、徹は中部の言葉をさえぎった。
「……仕方ありません」

「さあ間瀬、行こうか」
 富岡警部補がいう。
 浩次は促されるまま、ゆっくりと立ち上がった。
 退院。
 それは同時に彼の逮捕のときでもあった。
「浩次さん……」
 江利子が浩次の手を握る。
「私も警察までついていくわ」
「ああ……ありがとう」
 浩次は温かな江利子の手を強く握り返した。
「私、待ってる。あなたの帰りをずっと待ってるから」
 涙を拭いながら江利子はいう。
「だから、必ず私のところへ帰ってきてね」
「……もちろん」
 熱いものが胸の奥からこみ上げてくる。
「行くぞ」
 富岡は浩次に手錠をかけ、病室のドアノブをひねった。
「――あ」
 目の前の光景に、浩次は小さく声を漏らす。

 (1986年7月26日執筆)

つづく

1行日記
試合1日目! がんばるぞ!


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