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KUROKEN's Short Story 24

国語の教科書に載っていた星新一の「おーい でてこーい」にいたく感動した中学生のころ。ちょうど〈ショートショートランド〉という雑誌が発刊されたことも重なって、当時の僕はショートショートばかり読みあさっていました。ついには自分でも書きたくなり、高校時代から大学時代にかけて、ノートに書き殴った物語は100編以上。しょせん子供の落書きなので、とても人様に見せられるようなシロモノではないのですが、このまま埋もれさせるのももったいなく思い、なんとかギリギリ小説として成り立っている作品を不定期で(毎日読むのはさすがにつらいと思うので)ご紹介させていただきます。
※中学生のときに書いた作品をいくつか発見しましたので、本日はそちらをご紹介。そのままではまともに読めないシロモノなので、文章にちょっとだけ手を加えております。

運命の日

 俺は呆然とその場に立ち尽くすしかなかった。
 怒りにまかせて、右手に握った書類を握りつぶす。
 それは今朝、国家組織のエージェントから直接俺のもとに届けられた〈滅紙(ほろびがみ)〉だった。
 まさか、こんなにも早く届くなんて。
 絶望で目の前が真っ暗になるのがわかった。
 いつから、こんなわけのわからぬ制度ができたのか俺は知らない。
 俺の親父も、祖父も、エージェントから〈滅紙〉を受け取ると、まもなくこの世界から消滅した。
 おそらく気の遠くなるような大昔から、この制度は続いているのだろう。
 親父が消えたのは五十二歳のとき。祖父は七十八歳だ。
 運命と思ってあきらめていたのか、ふたりとも悲観した様子はまるでなかった。
 だが、俺は違う。俺はまだ十八年しか生きていないのだ。
 タバコも酒も、セックスだってまだ経験していない。
 なんで、こんな目に遭わなくちゃならないんだ?
 すべては〈滅主(ほろびぬし)〉の仕業だった。
 この世界の支配者〈滅主〉。
 不思議な力を持つ彼はこの世界を牛耳り、思いのままに操っていた。
 毎日、二十万人以上の人々に〈滅紙〉を送りつけ、不思議な力で彼らを消し去っているという。
 目的はわからない。
 わかりたくもなかった。
 俺は呼吸を整えると、もう一度〈滅紙〉に目を通した。

 長谷川義男殿

 貴殿は本日午前十時三分に、この世界から消滅することが決まりました。

 たったこれだけだ。
 情緒もへったくれもあったものじゃない。
 しかも、運命の時間まであと三分。
 これでは家族や、ひそかに恋心を抱いていたクラスメイトに、別れを告げることさえできないではないか。
「チクショー」
 俺は〈滅主〉を呪ったが、だからといってなにかが変わるわけでもない。
 なすすべもなく、俺はこの世界から消滅した。

 メガネをかけた青年が立ち上がる。
 処置室の扉が開き、看護師が姿を見せた。
「元気な男の子ですよ」
「あ、ありがとうございます」
 青年は看護師に頭を下げると、室内へ駆けこんだ。
「よくやったな」
 ベッドに横たわる妻に声をかける。
「賢そうな顔をした男の子よ」
 幸せいっぱいの表情を浮かべながら彼女はいった。
「どれどれ?」
 青年は妻に寄り添うちっぽけな赤ん坊の顔を覗きこんだ。
「本当だ。この子、俺の学生時代の恩師にどことなく雰囲気が似ているような……」
「恩師?」
「ああ。十八年前に亡くなられた長谷川義男先生だ」
 青年の顔を見て、赤ん坊はにこりと笑った。

(1982年8月執筆)

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