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MAD LIFE 309

21.ワーストチャプター(6)

2(承前)

「ま、待ってくれ」
「いえ、もうこれ以上は待てません。この会社はもうあなたのものではありません。私たちのものです」
「……ダメだ」
 ダメだ。
 冷静ではいられなかった。
 頭に血が昇る。
 徹は手元に立てかけてあったゴルフクラブをつかんだ。
「この会社は誰にも渡さない……」
 気持ちが抑えられない。
 ゴルフクラブを引きずり、じりじりと男たちのほうへ歩み寄っていく。
「お、おい。なにをするつもりだ?」
 徹の気迫に押されたのか、サングラスの大男が後ずさった。
 もうあとには退けない。
「この会社は俺のものだ!」
 徹は喉が張り裂けんばかりの大声をあげ、手にした凶器を振り上げた。

 約束の時間の十分前に到着する。
 店内にはすでに瞳の姿があった。
 窓際のテーブルでアイスティーを美味しそうに飲んでいる。
 瞳……すまない……。
 中西は心の中でそう呟いた。
 今になってようやく気づく。
 中西にとって母親の存在はとてつもなく大きかった。
 いつまでも親離れできない自分に不安を覚え、そこから脱するために、俺は瞳を利用したのだろう。
 自分は恋愛をしているんだと満足感を得るための付き合い……そんなものは到底、恋とは呼べない。
 中西はゆっくりと瞳に近づいた。
 瞳も彼に気づいて小さく笑う。
「……こんにちは」
「やあ……」
 ぎこちない挨拶が交わされた。

 (1986年6月17日執筆)

つづく

1行日記
昨日、今日と実力テスト。結果は……?

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