KUROKEN's Short Story 25
国語の教科書に載っていた星新一の「おーい でてこーい」にいたく感動した中学生のころ。ちょうど〈ショートショートランド〉という雑誌が発刊されたことも重なって、当時の僕はショートショートばかり読みあさっていました。ついには自分でも書きたくなり、高校時代から大学時代にかけて、ノートに書き殴った物語は100編以上。しょせん子供の落書きなので、とても人様に見せられるようなシロモノではないのですが、このまま埋もれさせるのももったいなく思い、なんとかギリギリ小説として成り立っている作品を不定期で(毎日読むのはさすがにつらいと思うので)ご紹介させていただきます。
怪物コンテスト
〈全日本恐ろしいおばさんコンテスト〉の最終選考会が始まって、すでに三時間が経過していたが、白熱した議論はなかなか終わりそうになかった。
「やはり、私は鬼婆が一番恐ろしいと思うわけで」
怪奇研究科が熱く語る。
「うーん、砂かけ婆も捨てがたいですよね」
民俗学者が持論を唱えた。
「いや、おしろい婆も忘れてもらっては困ります」
ホラー作家も自説を曲げない。
審査員の意見は見事にバラバラで、選考会はひどく難航していた。
「うーん、これではどうにもなりませんね。どうです? ここはスポンサーY社の意向に従うということにしませんか?」
司会者の意見に、皆はしぶしぶながらも従った。
「では、Y社さん。あなたの意見を聞かせてください」
ずっとタバコをふかしたまま黙りこんでいた農機具メーカーの男に声をかける。
「うーん……」
男はしばらく考えこんだあと、笑顔で答えた。
「おらあやっぱり、山姥がええなあ」
(1986年5月18日執筆)
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