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MAD LIFE 053

4.殺しのリズムに合わせて(8)

3(承前)

「瞳さん!」
 気を失い、小池の胸の中に倒れこんだ瞳を見て、由利子は喉が張り裂けんばかりの大声をあげた。
「邪魔をするな」
 小池が今度は由利子の口をハンカチで押さえる。
「なにする……の……」
 抵抗しようとしたが身体の自由が利かない。
 由利子はそのまま前のめりに倒れた。

 ここ最近、洋樹の退社時刻は誰よりも早い。
「お先に失礼するよ」
 今日も洋樹は足早に会社を出た。
 そのまま瞳の住むアパートへと向かう。
 照りつける陽射しのせいで、アスファルトが焼けるように熱い。
 前方の光景はゆらゆらと揺らいで見えた。
「瞳ちゃんのところへ行くんですか?」
 後ろから中西に声をかけられる。
 洋樹を追いかけてきたらしい。
 洋樹は立ち止まり、中西のほうを向いて笑った。
「高校生の少女に入れこんで……馬鹿な奴だと思ってるだろう?」
 中西はそれには答えず、入道雲を見上げながらいった。
「どうすれば解決するんでしょうね?」
「なにが?」
「長崎のことです。このままだと瞳ちゃん、ずっと金をむしり取られることになりますよ」
「また、俺たちでとっちめてやればいいさ」
 洋樹は軽口を叩いたが、それが無理であることくらいわかっていた。
「警察へいいましょう」
「それは駄目だ。警察に捕まれば、あいつは瞳のお兄さんが犯した殺人のことまでしゃべってしまうに違いない」
 そんなことになったら、瞳は本当にひとりぼっちだ。
「春日さんが支えてあげればいいじゃないですか」
 中西は真剣な顔つきで洋樹の目を見た。
「瞳ちゃんのことをずっと見守ってあげようと思っているなら……それが可能であるなら、なにもかも警察に話してしまうべきです」

(1985年10月4日執筆)

つづく

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