だるまさんがころんボ! 36
FILE.36 魔術師の幻想
魔術師サンティーニは、脱出マジックの最中に舞台を脱け出して、ナイトクラブのオーナーであるジェロームを殺害する。オーナー室の鍵は特別製で、普通の人間にこじ開けることはまず不可能。サンティーニなら解錠できるのではないかと考えたコロンボは、彼の舞台に立ち……。
「サンティーニさんに挑戦しようと用意してきたものがあるんです」
彼に挑戦状を叩きつけるコロンボ。
「我々のところには、危険な犯人を拘束するときに使う――絶対にはずせない特別製の手錠がありましてね。鍵なしじゃ誰にもはずせないという極めつきなんです。そんなシロモノですから無理かもしれませんが、ひとつはずせるかどうかやってみてくださいませんか」
まるで動じた様子のないサンティーニ。コロンボの挑戦を受け、両手を突き出す。
「さあ、どうぞ。遠慮なくかけてください」
彼に手錠がかけられる。
「では、やってみましょう。ドラムを鳴らしてください」
ドラムロールが響く。息を呑んで舞台上を見つめる客たち。やがて、サンティーニの手首から手錠がはずれる。
「いかがかな?」
「ブラボー。でも、このまま引き下がったんじゃ、あたしの立つ瀬がない。今度はあたしに手錠をかけてください」
さらに戦いを挑むコロンボ。
「では、遠慮なく」
手錠をかけられたコロンボの息づかいが、急に荒くなる。
「どうしました? ご気分でも悪いのですか?」
「……いえ。これだけじゃ物足りないので、両足もロープで縛ってください」
いわれたとおりにするサンティーニ。
「本当にはずせるんですか?」
「だ、誰がはずすなんていいました? もっと……もっと強く縛ってもらえます? ついでに鞭でぶっていただけると……」
「ただの変態かよ!」
「いや、冗談はさておき、本当に見事なマジックでした。実は、うちの家内もマジックに凝ってましてね。どうしたらあなたみたいになれるんでしょうか?」
「私はアフリカの砂漠で、五年に及ぶ精神修行を積んできたからね。あなたの奥さんも本気でマジシャンを目指すなら、まずそこから始めるべきだろう」
「砂漠で? サソリに襲われたりしませんか?」
「その点は大丈夫だ。これを家代わりに使っていたからな」
脱出マジックに使う巨大水槽を指差すサンティーニ。
「食べ物や飲み物はどうしてたんです?」
「極限状態に陥ったとき初めて、人は特殊な能力を発揮する。シルクハットからほしいものを取り出せるようになったのはこのときからだ」
「ええ? だって、あれはマジックでしょう?」
「いいや。シルクハットにはタネも仕掛けもございません」
そういって、帽子からグラスに入った水を取り出す。
「手品じゃなくて超能力? 信じられないなあ。そもそも、水槽を家代わりにするなんて無理でしょう? すぐに日射病で倒れちゃいますよ。砂漠の中じゃ、太陽の光をまともにくらっちまいますからね。それとも、これまた超能力でどうにかなっちゃったんですか?」
「ああ。心頭滅却すれば、砂漠もまた涼し」
「本当に? 実は直射日光を浴びないように、水槽にこっそり日除けでも作ってたんじゃありませか?」
「いいや。水槽には屋根も日陰もございません」
▼犯行の決め手は当時のハイテク機器。今の時代じゃ、完全に廃れちゃったシロモノだけど。
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