MAD LIFE 374
25.最後の嵐(9)
4(承前)
浩次と郷田はほぼ同じ位置に倒れていた。
どちらも銃弾は脚をかすめただけらしかったが、出血はかなりひどい。
「お兄さん! 死んじゃ駄目!」
瞳が涙を浮かべながら兄に叫ぶ。
「馬鹿いうな。……俺が死ぬわけないだろう」
浩次は笑いながら答えた。
「喋っちゃ駄目よ、浩次さん」
江利子が必死の形相で止血をしながら浩次にいう。
俺を心配してくれる人間はこんなにも大勢いるのか。
脚の痛みに顔を歪めながらも、浩次は大きな幸せを感じていた。
「よし。まずは郷田を取り押さえろ。奴を捕まえてしまえば、臆病者の八神は観念するはずだ」
中部は富岡らにそう指示を出した。
「畜生……」
郷田は撃たれた左脚を押さえながら、必死で立ち上がろうとしている。
「ここで捕まってたまるか」
彼は目の前にいた瞳を素早く左腕で捕らえた。
彼女のこめかみに拳銃が突きつけられる。
「動くな!」
瞳のそばに駆け寄ろうとしていた晃に、郷田の怒号が飛んだ。
「お遊びはここまでだ。さっさと道を開けろ! 俺は気が短いんだ。もたもたしてるとこいつの額に穴が空くことになるぜ」
彼のその言葉が脅しでないことは、異常な光を放つ目を見ればすぐにわかった。
(1986年8月21日執筆)
つづく
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