見出し画像

だるまさんがころんボ! 11

FILE.11 悪の温室

 資産家でランの収集家でもあるジャービスは、信託扱いのために手が出せない遺産を引き出すため、甥のトニーと共謀して狂言誘拐を企てる。計画は成功。ジャービスはトニーを殺害し、大金を独り占めにする。すべてはうまくいったように見えたが、あまりにも不自然すぎる証拠の数々に、コロンボが疑いを抱き始めて……。

 ジャービスの温室にやって来たコロンボは、誘拐事件に対する疑問点をひとつひとつ述べ始める。
「妙なんですよ。撃ち込まれた角度と弾道からいうと、弾はトニーの身体を貫通してるはずなんです。もし、運転中だったとしたらね。だが、やられていない。血痕もないし。ただ、32口径の弾があっただけ」
「トニーは逃げ隠れする点では慣れていたからね」
 ジャービスの言葉を聞いて、笑みを浮かべるコロンボ。
「これはいい。うまい冗談だ」
「お褒めにあずかって光栄だ」
「ではお返しに私も、とっておきのジョークをひとつ」
「いや、結構。私はランの世話で忙しいのでね。申し訳ないが、そろそろお引き取り願えないかな」
「では、このモスオーキッド──胡蝶蘭をネタに一席」
 シャービスの話を聞いているのかいないのか、むんずとランの花びらをつかむコロンボ。
「やめろ! 前にも話しただろう? それは千二百万ドルもする花なんだぞ」
「え? なんですって?」
 耳に手を当て、コロンボは顔をしかめる。
「だから、それはあんたの安月給じゃ買えないような、貴重なランで……」
「あたしも歳かなあ。なにをいってるのか、よく聞こえないや。あ、そうそう──」
 手を叩き、コロンボは胡蝶蘭の花びらをむしり取る。
「うわああああっ! なにをするんだ、このクソ刑事!」
「人のしゃべってる声がよく聞こえないときは、胡蝶蘭の花を耳に詰めるといいって、うちのカミさんが話してたのを思い出したんです」
 花びらを耳に押し込み、満足そうに頷くコロンボ。
「あんた、馬鹿か! そんなもので耳がよくなるわけないだろう!」
「いえ、よく聞こえますよ。さすが補聴ランだ」
「あ、あんた、まさか……そんなくそつまらない駄洒落をいうために、千二百万円もするランをむしり取ったのか?」
 怒りに全身をぷるぷると震わせるジャービス。
「あれ? お気に召しませんでしたか? 結構、自信あったんですけどねえ」
「私の……私のコレクションが……。あは。あはは。あはははは」
 プチンと切れたジャービスは、目の前にあったランをむしり取るやいなや、いきなりコロンボに襲いかかる。
「よくも私のコレクションをををををっ! 殺してやる! 殺してやる!」
 ぶんぶんとランを振り回すジャービス。
「おっ。今度はチャンバラごっこですか。受けて立ちましょう」
 コロンボもそばにあったランをむしり取り、それを剣にして振り回す。
「いやあ、楽しいですな。ランの剣で闘うなんて。これぞまさしく、ラン闘だ。あはははは」
 むしり取ったランは数十本。ジャービスは億単位の被害を被ることとなった。すなわち、「悪の温室」ならぬ「億の損失」
 ……おあとがよろしいようで。

▼キャシーの愛人ケンは、コロンボをひと目で刑事だと見抜いてましたね。いつも使用人や配達人と間違われてしまうコロンボにとっては、ずいぶんと貴重な体験だったのでは……。

画像1

《COLUMBO! COLUMBO!》ネット販売サイト


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?