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名探偵訪問

 先日、四人の高校生が、「作家の仕事場を見学したい」と我が家にやって来た。
 夏休みの自由課題として、レポートにまとめるのだそうな。

「さあ。わからないことがあったら、なんでも聞きなさい」

 と、僕は二千九百円の椅子にふんぞり返った。

 壁にかかったカレンダーを指差して、早速一人が口を開く。

「黒田さんはモーニング娘。が大好きなんですね」

 図星だが、あっさり肯定すれば、おたくのおじさんと思われかねない。

「い、いや、そこに貼ってあるカレンダーはね、知り合いからもらったもので、僕は決してファンというわけじゃ……」

 しどろもどろで答えると、彼女は首を横に振って、

「いえ、かなり濃厚なファンでいらっしゃるはずです。なぜなら、前の月のカレンダーを破らずに、めくりあげた状態のまま固定していますから。さらに、その部分を画鋲で留めるのではなく、クリップで挟んでいます。よほどのファンでなければ、ここまで大切に保管しようとは思わないでしょう」

 完璧な推理を披露され、思わず「参りました!」とひれ伏すところだった。
 高校生の仮面をかぶった名探偵かと、疑ったほどだ。

「あ、あそこに飾ってある犬のぬいぐるみ――」
 別の生徒が、タンスの上を指差す。

「こ、今度はなんでしょう?」
「耳のところに、カビが生えてます」
「あああああ。ホントだっ!」

 部屋の隅々まで掃除したつもりだったが、ぬいぐるみの耳にまでは注意が届かなかった。なんと鋭い観察眼だろう。

 しかし、これ以上、秘密を暴き立てられてはたまらない。

「さて、そろそろ仕事をしなくちゃならないんで……」

 最後は冷や汗をかきながら、未来の名探偵たちを見送った。

 さて、彼らはレポートに、どんなことを書いたのだろうか。そればかりが気になって、あれからなにも手につかない。

 当然、犬の耳も汚れたままである。


〈月刊ジェイ・ノベル〉2002年10月号 掲載


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