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MAD LIFE 351

24.それぞれの行動(2)

1(承前)

「富岡さん。誘拐事件が起こったんですか?」
 隣に座っていた江利子が尋ねる。
「ああ」
 富岡はぶっきらぼうにそう答え、バックミラー越しにちらりと浩次の顔を見た。
『詳しいことは、君が署に戻ってきてから話すことにしよう。運転中に悪かったな。これで切るぞ』
 無線機から中部の声が届く。
 彼に伝えなければ。
「待ってください!」
 浩次は富岡の手から受信機を奪い取って叫んだ。
「俺、脅迫電話の声の主を知ってます!」
 車内の全員の視線が浩次に集中した。
「あのしゃべりかた、それにあの独特な咳払い――間違いありません。そいつは郷田です!」
 郷田信彦。
 立澤組の組員。
 浩次が信頼していた部下のひとりだ。
 昨夜のことを思い出す。

 病院を抜け出した浩次は街なかで郷田に出会った。
「間瀬か?」
「おまえは……郷田。ちょうどよかった……おまえに頼みがある」
「……頼み?」
「俺を……妹のアパートまで連れていってもらえないか?」
「冗談じゃねえ。もう俺は貴様の部下でもなんでもねえんだぞ。今さら、そんな命令、聞けるわけねえだろ」

 郷田……おまえは今もまだ腐ったままなんだな。
「俺も金の受け渡し場所に連れていってください」
 浩次は無線機にそう告げた。
「俺が郷田を説得します。あいつの腐った性根を叩き直せるのは俺だけです」

 (1986年7月29日執筆)

つづく

1行日記
本日は花火大会! クラブのみんなと観にいきます。 


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