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MAD LIFE 173

12.危険な侵入(6)

 八月二十四日
 江利子に撃たれた社長を大急ぎで病院に連れていく。
 即、手術。
 意識は戻らず。
 頼む。
 生きてくれ。

 八月三十一日
 傷口が開き、再び出血。
 二度目の手術。
 俺が代わりに死んでもいい。
 目を覚ましてくれ、社長。

 九月二日
 未明に三度目の手術。
 しかし、手術の甲斐なく、社長死す。

 浩次は泣いていた。
 立澤栄はこの世の人ではなくなってしまった。
 俺の……たったひとりの兄貴。
 涙を拭う。
 兄貴は俺より九つ年上だった。
 ガキの頃から問題児だったらしい。
 何度も両親と衝突し、瞳の生まれた年――俺が八歳のときに家を飛び出してしまった。
 兄貴の行方はわからなかった。
 両親も兄貴を探そうとはしなかった。
 兄貴と再会したのはそれから三年後だ。
 その日は俺が退院する日だった。
 両親は俺を迎えるため病院に来ており、自宅には瞳だけが残っていた……。

「助けて!」
 家に帰ってくると、玄関のドアは開けっ放しになっていて、部屋の奥からは瞳の泣き叫ぶ声が聞こえた。
 俺たち三人は顔を見合わせ、慌てて家の中へ飛び込んだ。
「どうした? 瞳!」
「瞳!」
 目の前に広がる恐ろしい光景。
 すっかり大人になった兄貴が、両手で瞳の首を絞めつけていた。
 腕には龍の刺青が彫られている。

 (1986年2月1日執筆)

つづく

この日の1行日記はナシ



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