見出し画像

MAD LIFE 174

12.危険な侵入(7)

3(承前)

「おまえ、なにをしてるんだ?」
 親父は悲鳴に近い叫び声をあげると、兄貴の手を払いのけた。
「ふふ。ふふふっ」
 背すじがぞっとするような不気味な声で兄貴は笑った。
 床には注射器が転がっている。
 ……麻薬?
 俺は兄貴の顔を見た。
「くく……くくくく……みんな死んじまえ! 死んじまえ!」
 兄貴はそんな言葉を繰り返しながら家を飛び出していった。
 家の中からは現金四十万円と預金通帳がなくなり、兄貴は再び行方をくらませた。
 次に兄貴に会ったのは――

「社長」
 郷田の声で、浩次の回想は途切れた。
「社長」
「え?」
 郷田に目をやる。
 彼はもう一度いった。
「社長」
 浩次は笑った。
「おい、なんのことだ?」
「先代社長の遺言です。次の社長はあなたになりました」
「おい、じょう――」
 冗談だろう? といおうとして、浩次は言葉を止めた。
 郷田の顔は真剣そのものだ。
「兄貴が……俺を社長に?」
 浩次はそう呟き、そのまま呆然と郷田の顔を見つめ続けた。

 夏休みが終わったこともあり、帰りの電車には下校途中の子供たちが大勢乗っていた。
 洋樹は瞳の姿を探す。
 あいつ、学校へ行っただろうか?
 昨日、あんなことがあったのだ。
 まともでいられるはずがない。
 彼女のことが心配だった。

 (1986年2月2日執筆)

つづく

この日の1行日記はナシ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?