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MAD LIFE 177

12.危険な侵入(10)

4(承前)

「おじさん、どこへ行くの?」
 瞳がきく。
「〈フェザータッチオペレーション〉」
「え?」
 洋樹の返答に、彼女は大きく目を見開いた。
「〈フェザータッチオペレーション〉がなにかわかったの?」
「いや、まったく。俺がいっているのは喫茶店のことだよ」
「喫茶店? そんなお店、どこにあるの?」
「おまえ、この近くに住んでるのに知らないのか?」
「私、コーヒーとか、あんまり好きじゃないから」
「それは美味しいコーヒーを飲んだことがないからだろう? ちょうどいいや。おまえも一緒に行くか?」
「うん!」
 瞳は嬉しそうに答えると、洋樹の腕にしがみついた。

「お帰りなさぁい!」
 自宅へ戻ってくると、真知は主人を待ちわびた犬のように中西に飛びついてきた。
 うんざりする反面、ほっとする。
 真知がいなくなっていたら、彼女の父親について知ることができない。
「案外、帰ってくるの早いんだね」
 真知はそういいながら、中西にべたべたと甘えた。
「おい、いい加減にしろよ。もうすぐおふくろも帰ってくるんだからな」
「あら。お母さんと一緒に住んでるの? ひとり暮らしなのかと思ってた」
「……おまえ、いつまでここにいるつもりなんだ?」
「ずっと」
「いい加減、帰れよ」
「ううん、帰らないわ。ねえ、あたしのこと、お母さんに紹介してよ」
 中西はため息をついた。
「今日はずっと家にいたのか?」
「ううん。ちょっとだけ外出したわ。あの男たちの姿はもう見当たらなかったから」
「だったら、なにも心配ないだろう? 早く帰れって」
「い、や」
「じゃあ、勝手にしろ」
 中西の言葉に、真知はにっこりと笑った。
「わかった。じゃあ、勝手にするね」

 (1986年2月5日執筆)

つづく

この日の1行日記はナシ

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