見出し画像

だるまさんがころんボ! 07

FILE.7 もう一つの鍵

 一流広告代理店の社長である兄を殺害しようと企むベス。窓から入ってきた彼を、強盗と間違えたことにして撃ち殺す計画だったが、兄は合鍵でドアを開け、玄関ホールから姿を現した。動揺しながらも、なんとか殺害に成功するが、しかし計画どおりに事が運ばなかったため、犯行現場周辺には数々の矛盾の痕が……。

「ゆうべ、あたしがロビーで見つけた夕刊のことなんですがねえ。あなた、昨日一日外出しなかったって、おっしゃいましたなあ」
 ベスを問いつめるコロンボ。
「そのとおりですわ」
「そこがわかんないんだなあ。すると、あの夕刊、どっから来たんでしょう?」
 ホールに置かれていた新聞のことが気になっているらしい。
「おたくじゃ新聞、取ってらっしゃらないの?」
「取ってます。毎日届けてくれるし、便利ですからねえ」
「なら、おわかりでしょ?」
「とんでもない。それじゃあ、説明がつかんのですよ。いいですか? 夕刊にもいくつか版があるんですけど、あれは最終版なんです。午後の株式までちゃんと載ってましたからねえ」
「どうかしたんですか、それが?」
「配達するのは最終版じゃない。誰が買ってきたんでしょう?」
「そうね……兄じゃないのかしら」
「兄さんはあなたの寝室から入った。玄関からじゃないでしょう? そして撃たれて、ガラス窓のそばに倒れた。新聞紙に足が生えて、ロビーまで歩いてったんですかねえ?」
「……そういうこともあるかもしれませんわね」
 淡々と、ベスは答える。
「え? 新聞紙に足が生えたんですか?」
「刑事さん、心が存在するのは人間だけだと思ってません? 森羅万象──この世に存在するすべてのものには、心があるんですよ」
「……なんの話ですか?」
「兄の買ってきた新聞は、銃声を聞いて、慌ててその場を離れたんだわ」
「夕刊が現場を離れた? どうして? 自分も撃たれるかもしれないと思い、怖くなって逃げ出したんですか?」
「いいえ、そうじゃないと思います。怖くなったのなら、死んだふりをしていればいいだけのことですもの。誰も、動かない新聞を撃とうとは思わないでしょう?」
「そりゃあ、動かないほうが安全でしょうなあ。新聞が動き出したら、私だって撃っちまうかもしれない」
 コロンボは、ベスに顔を寄せた。
「じゃあ、兄さんの買ってきた夕刊は、どうして現場を離れたんです? 動けば、自分だって撃たれるかもしれないのに」
「兄さんの敵を取ろうと、台所へ武器の調達に走ったんじゃないかしら? ほら、台所に行けば、ナイフや包丁があるから。でも、その途中で寿命が尽きて死んでしまったんだわ」
「なんとも信じがたい話ですなあ。第一、新聞が兄さんの敵を討とうとしますかねえ」
 ベスはクッキーをひと口かじると、静かに呟いた。
「きっと、勇敢な夕刊だったんでしょうね

▼今回の物語の一番の見どころは、「徐々に性格が変わっていく犯人」──彼女の魅力に尽きるでしょう。会社での会議シーンなんて、とくに迫力がありました。
▼チョコレートを食べた途端、画面がぐにゃぐにゃっと歪む場面。最初は、麻薬入りチョコでも食べてるのかと思っちゃった(笑)。
▼新聞、芝、電球……コロンボが次々に見つけだす手がかりは、どれもみな面白い。だけど、決め手があれというのはちょっと……。鈍い僕でも、事件発生と同時に気がついちゃったもん。

画像1

《COLUMBO! COLUMBO!》ネット販売サイト


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?