MAD LIFE 373
25.最後の嵐(8)
4(承前)
「お兄さん!」
「浩次さん!」
瞳と江利子は同時に叫ぶと、浩次のそばへ駆け寄ろうとした。
「瞳、危ないからやめろ!」
晃は慌てて瞳を引きとめようとしたが、彼女はすでに数メートル先だ。
「おい、瞳。待てってば」
「うう……」
中西は小さく呻きながら、身体をゆっくりと動かした。
「中西! 大丈夫か?」
洋樹が中西の肩を揺する。
「はい……大丈夫です。銃弾は太ももをかすめていっただけですから」
そう口にした中西の顔色は決してよくはない。
右脚からは血があふれ出していた。
「待ってろ。今、止血するから」
洋樹はそういうと、胸ポケットから大きなハンカチを取り出し、それを中西の太ももに縛りつけた。
「中西さん……大丈夫なの?」
ふたりから少し離れた場所に立っていた人質の真知が心配そうに声をかける。
「ゴメンね……ゴメンね……私のために」
真知は何度も謝り続けた。
「馬鹿野郎。おまえは自分のことを心配しろ。それよりさっきの銃声は?」
「浩次君が八神という男に撃たれ、八神は中部警部の銃弾に倒れた」
洋樹は答えた。
そのときだ。
「お兄さん」
視界の隅に、瞳の姿が見えた。
「お兄さん、大丈夫?」
「馬鹿、瞳。危ないぞ」
洋樹は瞳に向かって叫んだ。
(1986年8月20日執筆)
つづく