見出し画像

MAD LIFE 347

23.一難去ってもまだ一難(13)

5(承前)

 由利子は今にも泣き出しそうな表情を洋樹に向けた。
「私たち……これからどうすればいいの?」
「……わからない」
 洋樹はうなだれてそう答えるしかなかった。

 午後八時、小崎家。
 突如、鳴り響く電話のベル。
「あなた!」
 浩子は徹の顔を見、徹は中部の顔を見た。
 中部は首を縦に振り、徹に合図を送る。
「なるべく会話を引き延ばしてください。逆探知を行いますから」
「……はい」
 徹は額に汗をにじませながら頷くと、震える手で受話器を取った。
「もしもし……小崎です」
 腹の底から精一杯の大声を出したつもりだったが、実際には細く弱々しい声が漏れただけだ。
『金の受け渡し場所をいう。今夜一時、旧埠頭の十一番倉庫へ来い』
「……旧埠頭? あの今は使われていない港に?」
『ああ、そうだ。おまえ、ひとりで来いよ』
 電話の男は最後におかしな咳をすると、一方的に電話を切ってしまった。
 全身から一気に力が抜け落ち、その場に座り込む。
「あなた、大丈夫?」
 浩子が慌てて徹の肩を支えた。
「ああ……心配するな。大丈夫だ」

 (1986年7月25日執筆)

つづく

1行日記
今日から東海大会のため、名古屋へ旅立ちます!



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?