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だるまさんがころんボ! 03

FILE.3 構想の死角

 売れっ子ミステリー作家として名高いジム&ケンの二人組。だが、実は小説を書いているのはジム一人だけ。コンビ解散後、ケンはジムを殺害してしまう。

 オフィスで、コロンボと対峙するケン。コロンボは事件について、詳しく説明を始める。
「要点だけに絞ってくれ。聞き手は推理作家だぜ」
「さあ? ホントに推理作家かな? 問題はそこだ」
 鋭い視線をケンに向けるコロンボ。
「あんた、作家じゃない。ガイ者の奥さんの話じゃ、あんた一行も書いていないそうじゃないか。なんにも書けない物書きなんてあるかね?」
「デタラメだ」
 ケンは即座に否定したが、コロンボは彼の言葉を一蹴し、さらに続ける。
「そこで、あたしは考えた。ミステリーも書けないような男に、巧妙な犯罪が仕組めるかってね。考えるっていう点じゃ、ミステリーも犯罪も違いはない」
「まあ、先を続けたまえ。馬鹿馬鹿しくって面白い」
 薄笑いを浮かべ、強がってみせるケン。
「で、わかったことは……最初の巧妙な犯行は、あんたの発案じゃない。二番目の間の抜けたのが、自作だってね。あまりにも差が大きい」
「きいっ!」
 それまで冷静にふるまっていたケンだったが、ついに我慢の限界に達したのか、ハンカチを強く噛みしめ、しきりに悔しがり始めた。
「黙って聞いてりゃなによ! あ、あたしが間抜けですって。ひ、ひどいっ! 馬鹿、馬鹿、馬鹿ああああっ!」
「なんで急に、オカマになるんですか?」
「うるさい、うるさい、うるさいっ! 誰がなんといおうと、あたしはミステリー作家よ! 〈メルヴィル夫人〉のシリーズは、あたしとジムの二人で書いたの!」
「ちょっと……落ち着いてください。ミステリー作家というよりも、ヒステリー作家になってますよ」
 必死で彼をなだめようとするコロンボ。
「あ、なに、その目は? あたしのいうことを疑ってるんでしょ? いいわよ、いいわよ。あたしだってスゴイ作品を書けるんだってことを、今から証明してやるわ!」
 ケンは、段ボール箱の中からタイプライターを引っ張り出すと、軽やかな指さばきで文章を打ち始めた。
「こういうのはどう? 〈国境の長いトンネルを抜けると──〉」
「トンネルを抜けると?」
「〈耳がツーンとするのが治った〉」
「なんじゃ、そりゃ! あんた、やっぱり物書きには向いてないよ」
 コロンボは哀れむような目で、ケンを見た。
「気の毒だが、もう誰もミステリー作家とは呼んでくれないだろうね。昨日まであんたを『先生、先生』と慕ってた人たちも、そっぽを向いちまうだろうな。あんたはミステリー作家じゃなく、見捨てられ作家になっちまったんだ

▼シリーズ化第一作。今回は解決シーンから抜粋したため、ちょっとネタばれ気味ですがお許しを。ところで、「構想の死角」って、やっぱり森村誠一さんの「高層の死角」の駄洒落だったりするんですかね?
▼〈メルヴィル夫人〉シリーズ。全15作で500万部ですか。羨ましいなあ。偶然ながら、僕の著作も15作となりましたが、部数は……(涙)。
▼「最初の殺人事件のトリックは実に凝っていて、犯人も用意周到だが、二番目の事件で用いられるトリックは非常にしょぼく、犯人の行動もずさん」というミステリー小説やドラマにありがちな設定を利用したプロットに脱帽!
▼ケンを強請ったラ・サンカ夫人って、なかなか迫力のある口を持ってますよね。近づいたら、一気に食べられちゃいそう。

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