KUROKEN's Short Story 30
国語の教科書に載っていた星新一の「おーい でてこーい」にいたく感動した中学生のころ。ちょうど〈ショートショートランド〉という雑誌が発刊されたことも重なって、当時の僕はショートショートばかり読みあさっていました。ついには自分でも書きたくなり、高校時代から大学時代にかけて、ノートに書き殴った物語は100編以上。しょせん子供の落書きなので、とても人様に見せられるようなシロモノではないのですが、このまま埋もれさせるのももったいなく思い、なんとかギリギリ小説として成り立っている作品を不定期で(毎日読むのはさすがにつらいと思うので)ご紹介させていただきます。
こけしの恩返し
昔々の出来事です。
ある雪の晩、若者が寒さに震えながら帰り道を急いでいたところ、道の隅に一体のこけしが落ちていることに気づきました
こけしを哀れに思った若者は、降り積もった雪を丁寧に払うと、お地蔵様の横に置いてやりました。
そんなことがあってから数日後、若く美しい女性が若者の家にやってきました。
どこにも行く当てがないという女性を、若者は住まわせてやることにしました。
「では、あなた様に着物を織ってさしあげます。しかし、私が機織りをしている姿を決して見てはなりませぬぞ」
女性は若者にそういうと、奥の一室へ閉じこもり、機を織り始めたのでした。
女性の織った着物はどれも着心地がよく、たちまち若者の生活は潤いました。
しかし、こんな高級そうな糸をどこから手に入れているのだろう? 謎は深まるばかり。ある日、若者は約束を破って、とうとう部屋を覗いてしまいました。
部屋の中には頭の禿げあがった女性がおりました。なんと彼女は自分の髪の毛を糸にして機を織っていたのです。
禿げた女性の姿は、若者が以前助けたこけしにそっくりでした。
「おまえはあのときのこけしではないか。そうか……これはこけしの恩返しだったのだな」
「いいえ」
女性は禿げた頭に手を当てて答えました。
「ツルの恩返しです」
(1986年3月桑名高校機関紙「しらうお」掲載)
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