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だるまさんがころんボ! 10

FILE.10 黒のエチュード

 有名交響楽団の指揮者アレックスは、愛人のジェニファーを自殺に見せかけて殺害。その際、タキシードの襟に留めていたカーネーションを、うっかり落としてしまう。なんとしても、警察に気づかれぬよう回収しなくてはならない。アレックスはタキシードの上からコートを着込み、再び事件現場へと向かったが……。

 コートを脱ぎ、さりげなくピアノの下からカーネーションを拾い上げるアレックス。
「なにかありましたか?」
 満面に笑顔を浮かべたコロンボが、ゆっくりと近づいてくる。
「花をね。どうも、コートを脱ぐときに落としたらしい」
 内心の動揺を押し隠しながら、アレックスは襟にカーネーションを留める。
「ピンが曲がってますよ」
 カーネーションに顔を寄せ、そう口にするコロンボ。
「ところで、そのカーネーションですけど、本当にアレックス先生が落としたんですか?」
「え……なにをいってるんです?」
「その花、先生がいらっしゃる前から、ピアノの下に落ちてましたよ。あたしはてっきり、犯人の忘れ物かと思ったんですが」
「犯人って……どういうことです? ジェニファーは自殺したんでしょう?」
「いえ。あたしは他殺だと睨んでます。そして、そのカーネーションの持ち主こそが犯人です」
 疑わしそうな視線を、アレックスに向けるコロンボ。
「あ、あれ? よく見たら、このカーネーションは僕のものではなかったみたいだ」
 とっさにごまかすアレックス。
「そうだ。今日は花をつけずに、舞台へ上がったんだ。そのことをすっかり忘れてたよ。あは。あはははは」
「では、先生の花ではないんですね?」
「も、もちろん違うよ。こんなカーネーション、見たこともない」
「あれ? しかし、先生はいつも舞台に上がるとき、これと同じようなカーネーションを襟に留めてませんでしたっけ?」
「ああ。普段はそうだが、今日はやめておいたんだ」
「どうして?」
「それは……その……ゆうべから突然、カーネーションアレルギーになってしまってね。へっくしょん! こんな感じで、ぶわっくしょん! カーネーションの花粉でくしゃみが止まらなくなって」
「おや。それはお気の毒に」
「そんなわけで、僕はぶぃえっくしょい! 犯人じゃびやっくしぇい! ないよ」
「なんか、ものすごいわざとらしいくしゃみなんですけど」
「そ、そんなことはぶわっくしょい! あ……」
 あまりにも力んでくしゃみをしすぎたため、貧血を起こしてその場に倒れ込むアレックス。
「大丈夫ですか?」
 コロンボは心配そうに、彼の顔を覗き込む。
「ありゃりゃりゃ。この人、完全に白目むいちゃってるよ。カーネーションのせいで、完全燃焼しちゃったみたいだね

▼インコ、車、遺書と次々に出現する手がかりに「をを!」と膝を打つ反面、決め手のインパクトが弱くて「ん?」と首をひねってしまうあたり、「もう一つの鍵」にそっくり。ただ今回は、謎解きシーンに第三者の思惑がからんでくるところが、斬新で面白い。
▼ドッグ初登場。最初から最後まで、のぺーっと床に這いつくばってましたね。たれぱんだってなにかに似てるなあ、とずっと思っていたんですが、ようやく判明。そうか。ドッグだったんだ。

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