見出し画像

MAD LIFE 203

14.コインロッカーのひと騒動(7)

3(承前)

「え?」
「鍵だよ、鍵!」
 中部は富岡から鍵を奪い取ると、すぐに走り出した。
「警部、どこへ?」
「駅だ!」
 中部はそれだけいい残すと、猛スピードで駅へと急いだ。

 午前零時半。
「明日も学校があるんだろう? 早く寝ろよ」
 洋樹が瞳にいう。
「おじさんこそ早く帰った方がいいんじゃないの?」
「今夜は遅くなるっていってある」
「 そう……」
 瞳は鏡台の前に座り、小さく頷いた。
「明日は必ず学校へ行くんだぞ」
「…………」
 彼女はなにも答えようとしない。
「なにかあったのか?」
 そう問いかけても、黙ったままだ。
 櫛を手に取り、髪をとかし始める。
「……おじさん」
 しばらく経ってようやく、瞳は弱々しい声を発した。。
「立澤栄が死んだって」
「ああ……ニュースで聞いたよ」
「あの人ってもしかしたら――」
 瞳はそこまでしゃべると再び押し黙った。
「どうした?」
「もしかしたら……私の……」
 壁時計の秒針がやけに大きく聞こえる。
 瞳はため息をついたあと、次の言葉を口にした。
「私のお兄さんかもしれない……」

 (1986年3月3日執筆)

つづく

この日の1行日記はナシ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?