見出し画像

1996ベストミステリを語る 06

SFミステリに期待!(96 12/24)

「では再び、皆さまからいただいたアンケートに戻って、話を進めることにしましょう」
「Mさんのベストミステリは『ステップファザー・ステップ』。宮部みゆきのライトミステリね。今年文庫に落ちたので、あたしも読んだわ。やっぱり宮部みゆきは子供書かせるとうまいわよねぇ」
「宮部みゆきの今年の新刊は『蒲生邸事件』なわけだけど、どうだった?」
「超能力が好きなお人だわ……と思ったけど(笑)。ラストは泣かせたわよねぇ。でもホント、昨年に引き続き、今年もSFミステリが多かったんじゃない?」
「その筆頭はやっぱり『人格転移の殺人』でしょうなぁ。これからの本格ミステリは、こういう感じの作品が増えるかもしれないね。現実にはあり得ない特殊な状況の中で、どのように謎を解決するか……状況を作者の都合のいいように設定できるから、トリックのバリエーションは広がると思うし。それを卑怯と思う人は駄目だろうけど、僕は許せちゃうからね。たとえば『ぜにーちゃん』でもちょこっと書いたんだけど、『吸血鬼の密室』とかね。十字架で四方を覆い尽くしている隙間だらけの部屋。でも吸血鬼の世界ではそれが密室となるわけ。さて犯人は? ……って今までとは違う謎、違うトリックがいくらでも作り出せるわけでしょ。『七回死んだ男』や『人格転移の殺人』がそういうSF本格ミステリの草分け的存在になるかもしれないね」
「今年は他にどんなSFミステリがあった?」
「『パワー・オフ』。冒頭はインパクトあるよね。この本を読むと、コンピュータ・ウィルスが本当の生命体のように思えてくる。SF本格とは別に、近未来を想定したミステリってのもこれからどんどん登場するんじゃないかな」
「『すべてがFになる』なんかも、ある意味SFだものね」
「コンピュータが大衆のものとなって、新しいハイテク犯罪はこれからどんどんと生まれていくと思うし。そうなるとトリックのバリエーションだってますます増えるはず」
「なるほど。まったくの空想世界で話を展開させるのも、近未来を舞台にハイテクを利用して話を展開させるのも、どちらもトリックの創造には大きくプラスに働くわけね」
「うん。だからますますSFミステリは発展していくのではないかと……」
「そういえば、今年の日本推理作家協会賞を受賞した『ソリトンの悪魔』なんて完全なSFよね」
「あれをミステリと呼ぶかどうかはちょっと疑問だけど。ミステリとSFの境界ってきわどいよね。……っていうか、ミステリ=エンターテイメントって図式が成り立ってしまったような気もするけど。僕個人の定義としては、謎解きが物語の中心である物語をミステリだと思ってはいるんだけどね。そういう意味で考えると、『リング』は思いっきりミステリなんだけど『らせん』は全然ミステリじゃない」
「昔、アシモフの書いたSFミステリを読んで、すごく感動したことがあったのよ。『はだかの太陽』だったかしら? ああいうミステリをもっと読みたいわね」
「というわけで、SFミステリにすごく期待している私であります」
「お薦めのSFミステリがあったら教えてねん」

解説

~ステップファザー・ステップ~
 「ステップファザー・ステップ」(宮部みゆき*講談社文庫)
 ひょんなことから双子の代理親となってしまった泥棒。心温まる傑作短編集。

~ぜにーちゃん~
 言わずもがな、この博物館の3階に住み着いている警部。本文に出てくる吸血鬼の話は「十字架の密室殺人事件」参照。

~パワー・オフ~
 「パワー・オフ」(井上夢人*集英社)
 コンピュータ・ウイルスが引き起こす悲劇。近未来パニック小説。

~日本推理作家協会賞~
 日本推理作家協会が毎年優秀な推理小説に贈る名誉ある賞。第49回となる今年の協会賞受賞作は「魍魎の匣」(京極夏彦*講談社ノベルス)と「ソリトンの悪魔」(梅原克文*朝日ソノラマ)。

~ソリトンの悪魔~
 「ソリトンの悪魔」(梅原克文*朝日ソノラマ)
 突如、海の中に現れた知的生命体「ソリトン」。息をつかせぬジェットコースターストーリー。油断していると、とんでもない展開に頭がパニックになります。

~リング~
 「リング」(鈴木光司*角川書店)
 見たら死んでしまうという謎のビデオテープの謎を解くため、立ち上がる主人公。ラストは驚き。

~らせん~
 「らせん」(鈴木光司*角川書店)
 「リング」に続く第2弾。ますますパワーアップして、もうなんでもありの状態になってしまっております。3月にはシリーズ完結編「ループ(仮題)」が発売される予定。

~はだかの太陽~
 「はだかの太陽」(アイザック・アシモフ*ハヤカワ文庫)
 すべてがロボットで管理される惑星で起きた殺人事件。犯人はロボットなのか?


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?