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MAD LIFE 349

23.一難去ってもまだ一難(15)

7(承前)

 開いたドアの前には瞳が立っていた。
「お兄さん……」
 じっとこちらを見つめながら言葉を紡ぐ。
「なにしに来た?」
 浩次は動揺を隠し、ぶっきらぼうに尋ねた。
「無理やり怖い顔しなくたっていいよ。全部、芝居だったんでしょう? 私に銃を向けたのだって本当は……」
「おまえ、瞳にしゃべったのか?」
 そういって江利子を睨みつける。
「ええ、しゃべったわ」
 江利子は悪びれることなく答えた。
「瞳さんに本当のあなたを知ってほしかったから。誤解されたままあなたたちが離れ離れになるなんて、そんなの絶対にイヤ」
「余計なことをしやがって」
 そう口には下が、不思議と怒りの感情は湧いてこなかった。
 むしろ、江利子に感謝していることに気がついて驚く。
 ありがとう……江利子。
 全身が幸せな気持ちに包まれていく。
「お兄さん……」
 瞳がゆっくりと近づいてきた。
「そんな呼びかたはするな。俺たちは兄妹じゃない」
「ううん。お兄さんはなにがあったとしても私のお兄さんよ」
 いきなり瞳に抱きしめられ、浩次は動けなくなった。
「……瞳」
 暖かくて柔らかな毛布にくるまれているような感覚。
 感情を抑えきれない。
 両腕で瞳を抱きしめ返す。
「そうだな……俺が間違ってた。おまえはいつまでも俺の妹だ」
 俺はひとりじゃない。
 そして、こんなにも俺を慕ってくれる妹を絶対にひとりにはできない。
 これからも俺が守ってやらなければ。
「……よかった」
 江利子が涙ぐんでいる。
 こいつは俺たち兄妹のために涙を流してくれる心優しい存在だ。
 俺は……なんて幸せ者なんだろう。
 彼女たちのためにも二度と過ちは犯さない、と心に誓う。
 気がつくと浩次も泣いていた。
 ……涙を流すのは一体、何年ぶりだろう?

 (1986年7月27日執筆)

つづく

1行日記
ちょっと話の展開を急ぎすぎたかな? 

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