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MAD LIFE 353

24.それぞれの行動(4)

2(承前)

 中西はベッドの上で何度も寝返りを打っては、大きなため息をついた。
 ずっと真知のことばかり考えてしまう。
 真知の笑顔を思い出すと、胸が強く締めつけられた。
 机の上に置いていた腕時計が午後九時を報せる短いアラーム音を鳴らす。
 中西は上半身を起こすと、自分の頬を思いきり叩いた。
 うじうじ悩んでたって仕方ない。
 ベッドから下りて力強く頷く。
 こうなったらはっきりさせてやるさ!
 階段を慌ただしく下りていくと、
「どうしたんだい? 望。どたばたと騒がしいね」
 美和が居間から顔を覗かせて尋ねた。
「いや、なんでもないよ」
 笑ってそう答え、電話の前に立つ。
 ……なにを話せばいい?
 黒い塊の前で考えた。
 おまえは真知になんていうつもりだ?
 ゆっくりと受話器に手を伸ばす。
 鼓動が激しくなるのがわかった。
「いや、電話じゃ駄目だ!」
 中西は受話器に伸ばした手を引っ込め、美和のほうを向いた。
「母さん。俺、ちょっと出かけてくるよ」
「こんな時間に?」
 編み物の手を休め、美和は息子を見上げた。
「出かけるってどこへ?」
「運命の人のところへ」
 それだけ答えて、家の外へ飛び出す。
 夜更かしした蝉の声を耳にしながら、中西は真知の自宅へと向かった。

 (1986年7月31日執筆)

つづく

1行日記
とうとう7月も終わり……そして物語はいよいよフィナーレへ!

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