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青鬼 説得編

 nopropsさん制作の大ヒットゲーム「青鬼」をノベライズさせていただいたのは2013年のこと。
 ゲームの熱狂的ファンがもともと大勢いたことや、挿画を描いてくださった鈴羅木かりんさんのおかげもあり、小説版『青鬼』の売れ行きは好調で、ついに昨年末、シリーズ累計100万部を達成しました。
 これもすべて皆さんのおかげです。どうもありがとうございます。

 「青鬼」シリーズには唯一、本に収録されていない短編小説があります。2017年秋にアニメイトのキャンペーン用に書いたものです。
 書籍を購入した際に配られるカードにARが仕込んであり、スマホ用のアプリを使うと期間限定でショートストーリーが読めるという仕組みになっていました。
 おそらくカードをお持ちの方はほとんどいらっしゃらないと思います。カードをお持ちの方も、今はもうショートストーリーを読むことはできません。
 というわけで、超レアな「青鬼」の物語をどうぞ。

 青鬼 説得編

 残念ながらもう逃げ道はありませんね。
 観念します。僕の負けです。
 君の好きなようになさってください。
 ただ、僕は卓郎君みたいに筋肉もありませんし、美香さんみたいに柔らかくもありません。
 骨と皮だけの味気ない食材なので、さほど満足してはいただけないかと思いますが。
 え? それでもかまわない?
 よほどお腹が空いているのですね。
 わかりました。僕のような質の悪い食材でよろしければどうぞ。

 ……ああ。最後にひとつだけいいでしょうか?
 味付けはされないのですか?
 品質がよければ、食材そのものの味を楽しむこともできますが、僕のような粗悪品の場合、ちょっとした味付けをほどこすだけで、口あたりがかなり変わってきますよ。
 先ほど、たけし君をずいぶんと美味しそうに食べていたじゃないですか。あれはたけし君の流した汗と涙がほどよい調味料になったのだと思います。
 それくらい味付けは大切なものです。
 こんな僕でも、味付け次第でごちそうに変わりますよ。騙されたと思って、少しだけ手を加えてみてはいかがでしょう?
 なんですか? 腹が減っているから、味付けなんてどうでもいいって?
 そうですか、残念です。
 いえ、僕は決して時間かせぎをしているわけではありません。
 遅かれ早かれ、君に食べられてしまうことはわかっているのですから。まずくてもかまわないというのであれば、もうよけいなことは申しません。どうぞ食べてください。

 ……あ。
 でも、最後にもうひとつだけいわせてください。
 本当にこれが最後です。大切なことなのです。
 すでに三人の人間を食べたのに、まだお腹が減っているというのは、明らかにおかしいですね。もしかしたら満腹中枢に異常を来たしているのかもしれません。
 このままだと僕を食べても満足しきれず、永遠に空腹に苦しむことにもなりかねません。一度、病院で診てもらったほうがよいのでは?
 病院はイヤ? なんとかならないのかって?
 そうですね。満腹中枢が正常に働かない最大の原因は、脳内物質セロトニンの減少です。こんな薄暗い場所に閉じこもっていてはいけません。
 セロトニンは日光を浴びることで体内に生成されますので、まずは屋敷の外へ出ましょう。それで治るかもしれません。さあ、急いで。

                 ~GAME CLEAR~

 ……少し解説が必要かもしれませんね。
 初期の小説版『青鬼』に登場する青鬼は太陽の光を苦手としていました。屋外へ出た途端、青鬼は戦力を失ってしまったので、ひろしは無事に脱出できました……そーゆーお話です💦 

 つい先日、小説版『青鬼』の第1作が8年の歳月を経て文庫化されました。
 これを機会に、たくさんのかたに読んでいただけたら幸いです。

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