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MAD LIFE 175

12.危険な侵入(8)

4(承前)

「俺、次の駅で降りるから」
 洋樹は隣に立っていた中西にいった。
「え? どうしてです?」
「立川が話していた〈フェザータッチオペレーション〉という名前の喫茶店に行ってみようと思うんだ」
「俺も一緒に行きましょうか?」
「いや、いい」
 洋樹は目まぐるしく移り変わる窓の外の風景を見ながら首を横に振った。
「おまえは、真知君の親父さんを探し出してくれ」
「わかりました」
 中西と別れ、電車を降りる。
 学生たちも何人か下車した。
 彼らは皆、真っ黒に日焼けしている。
 きっと、楽しい夏休みを過ごしたのだろう。
 笑顔がまぶしい。
 洋樹は瞳の姿を思い浮かべ、彼らと比較してみた。
 瞳の笑顔は確かに素敵だ。
 だが、目の前にいる子供たちとはちょっと違う。
 笑顔の中に見え隠れする翳り。
 それが瞳を魅力的に見せているのだ。
 ……瞳は夏休みを楽しむことができたのだろうか?
 長崎に苦しめられ、唯一の身内である兄は行方不明になり……何度も辛い目に遭ってきたに違いない。
「おじさん」
 突然、声をかけられる。
「なに、ぼおっとしてるの?」
 目の前には大きな手提げ袋を持って微笑む瞳が立っていた。
「瞳……」
「どうしたの? 深刻な顔して」
「おまえ……なにやってるんだ?」
「見ればわかるでしょ。買い物だよ」

 (1986年2月3日執筆)

つづく

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