MAD LIFE 050
4.殺しのリズムに合わせて(5)
2(承前)
晃はため息と共に受話器を置くと、電話ボックスを出た。
「嫌われて当然だよな」
目の前のアパートを見上げながら呟く。
「ごめんな、瞳」
アパートに背を向けると、彼はうなだれたまま、駅へと続く道を歩き始めた。
3
どれだけ考えても、やはり納得がいかない。
由利子は唇を嚙みしめた。
洋樹は私を愛してくれている。
それはたぶん本当だ。
でも、あの少女のことも同じくらい……いや、もしかしたらそれ以上に愛しているのではないだろうか?
由利子はみたび、瞳の暮らす照沼荘へやってきた。
あの娘になんといえばいいんだろう?
瞳の部屋の前に立ち、考える。
もう一度はっきりいおう。洋樹とは別れてくれと。
暑い。
ただ立っているだけで汗が噴き出してくる。
蝉の声が耳にまとわりついて離れない。
意を決し、由利子はドアをノックした。
「はい。どなたですか?」
瞳の声が耳に届く。
由利子は胸を押さえ、咳ばらいをひとつすると、冷静になれと自分にいい聞かせながら、口を開いた。
「春日の妻です」
涙が止まらない。
ごめん……ごめん、晃。
彼との思い出が次から次へとあふれ出してくる。
まもなく二学期だが、もう晃とは顔を合わせられなかった。
布団に顔をうずめ、嗚咽を漏らす。
そのとき、ドアがノックされた。
(1985年10月1日執筆)
つづく
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