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《好き!》のパワー

 僕の通っていた三重県立桑名高等学校には毎年1回生徒自治会が発行する〈しらうお〉という機関誌があります。僕が高校生だったころ、その冊子に小説を掲載していただいたこともありました(こちらを参照)。
 本日紹介するエッセイは「卒業生のあなたから在校生に向けてなにかエールをいただけませんか?」と依頼を受け、2014年3月発行の〈しらうお〉に寄稿したものです。
 かなりこっぱずかしいことを書いていますが、「オタク万歳!」という気持ちは今もまったく変わっていません。
 では、どうぞ。 

 皆さん、はじめまして。二十七年前に桑名高校を卒業し、今現在も桑名に住みながら、小説やシナリオを書いて毎日を過ごしている黒田研二と申します。

 突然ですが、ここで質問です。

 ほかの誰にも負けないくらい夢中になっているものってありますか?

 僕の場合は、それが「物語を創ること」でした。
 高校の頃は、自分の考えた物語を連続ラジオドラマ風に仕立てて友人に語ったり、授業中は先生の目を盗んでノートの切れ端に漫画や小説を書いたりしていました。
 将来は作家になろうと決意したのもこの頃。
 新人賞への初投稿は高校二年生の秋でした。当然ながら箸にも棒にも引っかかりませんでしたが、それでもめげずに投稿を続け、ようやく夢が叶ったのは三十一歳のとき。
 落選した作品はおそらく五十本以上、全部合わせたら原稿用紙一万枚は軽く超えていたと思います。
 何度も挫折しそうになりながら、それでもあきらめ悪くここまでやって来ることができたのはきっと、物語を作ることが大好きだったからなんでしょうね。

 《好き!》のパワーはスゴイです。
 たとえばひどく落ち込んでいるとき、「来週大好きなアーティストのニューアルバムが発売されるから、それまでは頑張ってみよう」と自分を慰めたこととかありませんか?
 音楽、スポーツ、手芸、グルメ……程度の差はあれど、誰だって好きなものは持っているはず。
 どうせなら、「もしかしてオタク?」と周りに呆れられるくらいに熱狂的な趣味を持ってもらいたいものだ、と僕は常々思っています。

 というわけで、もう一度冒頭の質問です。

 ほかの誰にも負けないくらい夢中になっているものってありますか?

 公序良俗に反するものでなければ、なんだってかまいません。
 他人にくだらないと思われそうなものでもOK。
 「あるよ!」という人は、その思いをいつまでも持ち続けてください。
 夢中になれるものが見つからない人は、今からでも遅くありません。
 まずは、クラスの誰よりも「好き!」と断言できるものを作り出すことからスタートです。
 皆さんが高校を卒業したあとに踏み出す新しい世界は今までよりずっと広く、今持っている《好き!》をさらに深いものへと変えてくれることでしょう。
 もしかしたら、新たな《好き!》が見つかるかもしれません。
 《好き!》があればたいていの困難は乗り越えていけます。
 《好き!》を介して人間関係も広がっていくでしょうし、僕みたいに《好き!》がそのまま仕事になってしまう人だって現れるかもしれません。
 その日のために、今持っている《好き!》をしっかりと磨いておいてください。
 あなたの《好き!》はあなたの大切な個性です。
 勉強の邪魔になるからといって切り捨てる必要などまったくありません。
 むしろ、将来日本一になるくらいの意気込みで、ますます極めていってもらえたら――そう僕は願っています。

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