MAD LIFE 176
12.危険な侵入(9)
4(承前)
瞳が嬉しそうに手提げ袋の中身を見せる。
そこにはニンジンやジャガイモが入っていた。
「今夜は私の大好きなビーフシチュー。あ、そうだ。おじさんも食べていく?」
洋樹は瞳の質問を無視して尋ねた。
「おまえ、今日、学校には行ったのか?」
「どうしてそんなことを訊くの?」
瞳が口をとがらせる。
「いや、もしかしたら行ってないんじゃないかと思ってさ」
「行かなかったよ」
つま先で土の上に円を描きながら、彼女は答えた。
「なぜ?」
「寝坊したの」
「寝坊?」
「きゃっ!」
瞳は突然、悲鳴をあげて洋樹に飛びついた。
「お、おい。なんだ?」
「蛇」
そう口にした瞳の顔は真っ青だ。
「……蛇?」
小さな蛇が土の上を這っている。
「なんだよ、蛇くらいで」
洋樹は笑った。
「早くどこかへやってよ!」
「わかった、わかった」
洋樹は蛇をつかむと、茂みの中へ放り投げた。
「もういいぞ」
「本当に?」
「ああ。だから、早く手をほどいてくれないか?」
「……あ」
瞳は慌てた様子で洋樹から離れた。
今度は頬が赤く染まっている。
洋樹はもう一度笑った。
(1986年2月4日執筆)
つづく
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