MAD LIFE 054
4.殺しのリズムに合わせて(9)
4(承前)
洋樹は考えた。
中西のいうとおりだ。
解決策はただひとつ。
瞳を救うためには、警察に真実を話すしかない。
しかし――
「はたして、瞳が納得するかどうか……」
そういって、かぶりを振る。
「なぜです? 瞳ちゃんのお兄さんが行方不明になってから一週間以上経つんでしょう? そいつは妹を捨てて逃げたんですよ。かばったところで、なにも変わりません。いや、事態はさらにひどくなるだけです」
中西の言葉は正論すぎて、洋樹はただうなだれるしかなかった。
中西と別れた洋樹は、まっすぐ瞳のアパートへ向かった。
兄のことも含め、すべてを警察に話すよう、瞳を説得するつもりだった。
瞳はどんな顔をするだろう?
世界でたったひとりの血縁者を、自らの告白で警察に送りこむ――そんなことができるだろうか?
瞳の部屋の前に立つ。
ここへ来るのは何度目だろう?
自分に苦笑しながらドアをノックする。
なんの応答もない。
もう一度、今度は強く叩いてみた。
やはり、返事はない。
胸騒ぎを覚えた。
「瞳!」
人目をはばからず、大声で彼女の名を呼びながら、ドアを叩き続ける。
ノブに手をかけると、驚いたことにそれは簡単に回り、ドアはあっけなく開いた。
部屋の中を見て、愕然とする。
倒れた机と椅子……床に落ちた花瓶……粉々に砕けた窓ガラス……
洋樹は夢遊病者のように全身を左右に揺らしながら、ふらふらと部屋の中へ入った。
「なにが……起こった?」
力なく呟く。
壁にノートの切れ端が貼りつけてある。
それを見た途端、洋樹は畳の上に崩れ落ちた。
「遅かった……」
(1985年10月5日執筆)
つづく
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