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だるまさんがころんボ! 04

FILE.4 指輪の爪あと

 探偵事務所を経営するブリマーは、ふとした弾みで、新聞界の大立て者アーサー・ケニカット氏の妻を殺害してしまう。ケニカット氏の自宅を訪ねたコロンボは、そこで事件解決のために協力を申し出たブリマーと対面することになるが……。

「あたし、運命論者でしてね。なんでも信じちゃうんです。占星術、骨相学、手相、なんでもござれ。……ちょっとお手を拝見」
 そういって、ケニカット氏の手のひらを眺めるコロンボ。
「ひとことでいって、吉相ですなあ。生命力にすぐれ、財産運も強い。これならほとんどいうことなしです。羨ましい限りだ」
 続いて、ブリマーの左手を取る。
「拝見。ふーん。強烈な意志と……仕事に対する熱意。知能線のカーブのしかたが一万人に一人というタイプです。頭が切れすぎる。好調のときはこれ以上の強みはないけれども、いったん曲がってくると、どこまでそれるかわからない手相ですなあ」
「馬鹿馬鹿しい。占いなんて当てになるものか」
 鼻を鳴らし、コロンボを嘲笑するブリマー。
「あれ? 信じないんですか? あたしの手相は百発百中なんですよ。……あ、ブリマーさん。あなた、感情線が途中で切れてますね。ゆうべ、カッとなって誰かを殴ったりしませんでしたか?」
「……君はなにをいってるんだ?」
「おや? 顔色が変わりましたよ。もしかして、図星だったのかな?」
「馬鹿も休み休みいいたまえ」
「もう少し占ってみましょうか。えーと……ああ、中央線に息を切らして立ち尽くす男の人の姿が見えますね。三日前、電車に乗り遅れたでしょう? あ、紫外線に黒い染みが。日光浴もほどほどにしたほうがいい。昨夜は童話を読みながら床に就いたんですか? アンデル線が太くなってます。それから……ああ、カラオケの歌いすぎですね。扁桃線が腫れてます。あ、蟹におにぎりをあげないと大変なことになりますよ。さるかに合線に異常が見られますから。ギミア・ブレイク、大橋巨線! やめられない、止まらない、かっぱえび線!」
「デタラメもいい加減にしろ!」
「どーもすみま線」
「この刑事をどう思う?」
 不安げな表情を張りつけ、ブリマーに耳打ちするケニカット氏。
「どうもこうもないでしょう! 最悪です! 単なるアホじゃないですか!」
 激昂したブリマーは、大声で叫ぶ。
「アホとは失礼な」
 いきり立つコロンボ。
「ブリマーさん。今夜の食事には気をつけたほうがいいですよ。健康線の近くに、腐ったホッケが見えます。ホッケを食べて、腹痛を起こすかもしれませんな」
「馬鹿馬鹿しい。もし私が、ホッケで食あたりを起こさなかったらどうする? そのときは土下座して謝ってもらうからな」
「いや、それは約束できません」
「なぜだ? あんたの手相は百発百中なんだろう? だったら、私がホッケにあたるのも間違いないはずだ」
「それが……ホッケに限っては、そうもいいきれないんですよ」
 コロンボは、申し訳なさそうに続けた。
「昔からよくいうでしょう? 〈あたるもホッケ、あたらぬもホッケ〉ってヤツですよ

▼最後の駄洒落は、誰かがすでに使ってそうな気もするけど、ま、いいか(開き直り)。
▼「あたし、運命論者でしてね」というコロンボの台詞は、解決部分でもうまく活かされており、その場面ではくすりと笑ってしまいました。シリーズ中でも、とくにお気に入りのラストシーンです。

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