KUROKEN's Short Story 28
国語の教科書に載っていた星新一の「おーい でてこーい」にいたく感動した中学生のころ。ちょうど〈ショートショートランド〉という雑誌が発刊されたことも重なって、当時の僕はショートショートばかり読みあさっていました。ついには自分でも書きたくなり、高校時代から大学時代にかけて、ノートに書き殴った物語は100編以上。しょせん子供の落書きなので、とても人様に見せられるようなシロモノではないのですが、このまま埋もれさせるのももったいなく思い、なんとかギリギリ小説として成り立っている作品を不定期で(毎日読むのはさすがにつらいと思うので)ご紹介させていただきます。
※中学生のときに書いた作品をいくつか発見しましたので、本日はそちらをご紹介。そのままではまともに読めないシロモノなので、文章にちょっとだけ手を加えております。
真夏の珍事
これはある夏の日に起こった出来事。
その日はひどく蒸し暑かった。
あまりの熱気で気が変になるんじゃないかと、誰もが心配になったほどだ。
草野球からの帰り道、順一はもうひとりの自分を見かけた。
彼は猫背気味の姿勢で、順一の前を横切った。
(え……僕?)
順一は自分の目を疑った。
(絶対、見間違いなんかじゃない。あれは僕にそっくりな男だった。あいつは何者だ? まさか……インベーダー?)
以前、そのようなSF小説を読んだことがあった。人間に姿を変えて地球侵略を目論む宇宙人の物語だ。
順一はもうひとりの自分のあとを追いかけた。
(あいつはインベーダーだ! 今のうちになんとかしないと、地球がのっとられてしまう)
四つ角を曲がったところに、その男は立っていた。
「おい、おまえ!」
順一はその男を呼びとめた。
「なにか用?」
もうひとりの順一はゆっくりと振り返り、怪訝そうな表情を浮かべた。
「なんだとはなんだ! おまえ、インベーダーなんだろう?」
「は? なにをバカなことをいってるんだ?」
「とぼけるな! だって、おまえは僕にそっくりじゃないか!」
順一が大声で怒鳴り散らすと、彼は大声で笑い始めた。
「君と僕のどこが似てるって?」
「……え?」
「鏡をよく見てみろよ」
もうひとりの順一はそう口にすると、すぐ近くに駐車してあった車のサイドミラーを指差した。
いわれたとおり、順一はミラーを覗きこんだ。
「……あ」
そこに映っていたのは、順一の友人――晶彦の顔だった。
晶彦は呆然とその場に立ち尽くしていた。
「おい、おまえ!」
突然、後ろから呼び止められる。
「……なに?」
晶彦が振り返ると、そこには「俺は晶彦だ」と主張する浩司が立っていた。
これはある夏の日に起こった出来事。
その日はひどく蒸し暑かった。
あまりの熱気で気が変になるんじゃないかと、誰もが心配になったほど――
(1983年4月執筆)
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