MAD LIFE 178
12.危険な侵入(11)
4(承前)
「おい、真知」
中西は真知に訊いた。
「おまえの親父さん、なんて名前なんだ?」
「パパの名前? なんでそんなこと訊くの? お嬢さんを僕にくださいってお願いするつもり?」
「冗談はいいから、名前を教えてくれ」
「べつに冗談じゃないんだけど……トオル……小崎徹よ」
真知が答える。
どこかで聞いた名前だな、と中西は思った。
「こんなところに喫茶店があるなんて知らなかったな」
フルーツパフェを頬張りながら瞳がいう。
「でも、あんまり流行ってないみたいね」
「馬鹿。店主に聞こえるぞ」
洋樹は慌てて、瞳の言葉をさえぎった。
「こんなところが本当に、あの〈フェザータッチオペレーション〉と関係あるのかな?」
店内を見渡しながら瞳は小声で囁く。
薄暗い照明。
木目調の壁紙。
ガラスの丸いテーブルが五つ、イスは全部で二十ほど並んでいる。
カウンターには店主らしい髭を生やした男がひとり。
他には誰もいなかった。
客も洋樹と瞳のふたりだけだ。
洋樹はコーヒーを飲みながら、店主を観察した。
人のよさそうな顔つきをしている。
しかし、どこか油断できない雰囲気が漂っていた。
目だ。
洋樹は気づく。
どんな些細なことも見逃さないであろう鋭い眼光が少々恐ろしく感じられる。
「おじさん」
瞳が洋樹にいった。
「あれを見て」
(1986年2月6日執筆)
つづく
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