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MAD LIFE 055

4.殺しのリズムに合わせて(10)

4(承前)

 壁のミミズ文字は瞳の兄である浩次に宛てて書かれたものだった。

 ませこうじへ
 いもうとはあずかった
 まいにち3まんえん
 いつものじかん
 いつものばしょ
 かならずこい
 さもないといもうとのいのちはないとおもえ

 洋樹はしばらくの間、うなだれていたが、しばらくしてむくりと起き上がると、壁に貼られた紙を引きはがし、びりびりに破った。
「いつまでもおまえたちの思いどおりになると思うな」
 丸めた紙片を踏みつけて呟く。
「瞳……おまえを助けたら、なにもかもはっきりさせよう」

 家へ戻ると、由利子の姿がどこにも見当たらない。
「おい、俊」
 洋樹は居間でテレビを観ていた息子に声をかけた。
「あ、お帰り」
 俊はテレビ画面を見つめたまま、目を合わせようともしない。
「母さんはどこへ行った?」
「知らない。昼間出ていったきり、まだ帰ってきてないけど」
 俊の返事はあっけないものだった。
「まだ帰ってないって……もう七時を過ぎてるぞ。一体、なにをやってるんだ?」
 つい先日もこんなことがあったばかりだ。
 まさか、また瞳のアパートに出かけたのではないだろうな?
 不安に駆られたそのときだ。
 電話のベルが鳴った。
 反射的に受話器をつかみ、応答する。
『春日洋樹さんだね?』
 受話器の向こうから聞こえてきた声は聞き覚えのあるものだった。

(1985年10月6日執筆)

つづく
 

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