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だるまさんがころんボ! 08

FILE.8 死の方程式

 薬品会社先代社長の息子で、化学に長けたロジャーは、葉巻ケースに爆弾を仕掛け、現社長である叔父を殺害する。しかし叔父は死亡直前、自宅の留守番電話にメッセージを残していた……。

『あー、家内の奴、また機械に留守番させて遊びに行ったのか。……クインシー、そこのポケットに葉巻ないかな?』
 テープを再生すると、社長の声が流れ出した。運転手クインシーとの会話まで、綺麗に録音されている。
 葉巻を吸いながら、テープに耳を傾けるコロンボ。
『社長、ここにもありませんね。コートのポケットの葉巻入れにはございませんか?』
『それが見当たらんのだ。ケースを取ってくれ。……ああ、どうも。もしもしドリスかね? 私だよ。ちょっと待ってくれ』
『社長、なんなら車を止めましょうか?』
『いやいや、かまわん』
 社長が葉巻ケースの封を開けたらしいことは、録音テープからはっきりと聞き取ることができた。
 ふたを開けてから一定の時間が経つと、葉巻に仕掛けた爆弾が爆発する仕掛けだ。もしかしたら、爆発の瞬間が録音されているのかもしれない。時計を気にするロジャー。
『ああ、ドリス。私は今日、一日中会議会議で電話する暇がなかったんで、秘書のバレリーに頼んでおいたんだが……うわあ、なんだ?』
 突然、驚いたような声をあげる社長。録音テープからは、なぜか聴き覚えのある音楽が流れ始める。
『おまえら一体、どこから出てきたんだ?』
 慌てふためく社長の声。
「このイントロは……」
 ロジャーがそう口にしたと同時に、
『♪なぜ~、なぜ~、あな~たは~、きれ~いに~なり~たいの~』
 玉置浩二の歌声が聞こえてきた。
「うわあ、懐かしいねえ。安全地帯の『恋の予感』だ」
 嬉しそうに目を細めるコロンボ。
「ど、ど、どうして留守番電話から、安全地帯の歌が流れてくるんだ?」
『おまえは誰だ?』
 テープから、怯えたような社長の声が響く。
『俺はドラムス担当の田中だ』
『僕は、ギター担当の武沢』
『おいら、ベース担当の矢萩だよ』
『私、キーボード担当の六土です』
 いきなり、バンドメンバーの自己紹介が始まる。
「ははあ、わかりましたよ」
 一人頷くコロンボ。
「ロジャーさん。あなた、もしかして、社長の葉巻に爆弾を仕掛けたんじゃありませんか?」
 核心を突かれ、うろたえるロジャー。
「やはり図星でしたか。どうやら、葉巻の爆弾が、薬品の影響で玉置浩二率いる安全地帯に変化してしまったみたいですな。だから、葉巻ケースを開けた途端にバンドメンバーが飛び出してきて、『恋の予感』の演奏を始めたんでしょう」
「どういうこと? わけがわかんないよ!」
「あたしにもわかりませんよ。ただひとつ確実なのは、〈葉巻の爆弾〉が〈玉置の楽団〉に変わっちまったってことですな

▼本当は、ハリーポッターを登場させて、「夏の終りのハーマイオニー」って駄洒落も考えてたんだけど、枚数が足りなくなったので泣く泣く削除。
▼地上高くに吊されたロープウェイ──閉じた空間──の中で、謎解きが行われるというシチュエーションはものすごく僕好み。ロープウェイ内で謎解きを行なうことにも、ちゃんと意味があるし。だけど、高所恐怖症のくせに、ドアの開いたロープウェイ内で、よくも平然としてられたもんだなあ。

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