見出し画像

MAD LIFE 331

22.歯車は壊れた(12)

5(承前)

 封筒の口から中身が飛び出し、周囲に散らばった。
「大変だ!」
 慌てて、バラバラになった便箋と写真を集め始める。
「私も手伝うね」
 瞳はそういうと、彼女の目の前に木の葉のように舞い降りてきた一枚の写真を拾い上げた。
「あ――」
 写真に目をやり、瞳が小さな悲鳴をあげる。
「どうしました?」
 心配になって俊は尋ねた。
 しかし、瞳はなにも答えない。
 黙ってこちらに写真を返したあと、持っていたポシェットの中身を探り始める。
「俊君……その写真に写っている赤ちゃんは誰?」
 その声はなぜか震えていた。
「これ、僕の姉さんなんです」
 正直に答える。
「お姉……さん? だけど……君、長男だよね? おじさんからはそう聞いてるけど……」
「十六年前……父さんは生まれたばかりの赤ん坊を捨てたそうです」
 俊は吐き捨てるように答えた。
「…………」
 瞳は焦点の定まらない視線を宙に向けたまま、なにもしゃべらない。
「……瞳さん?」
 声をかけたが返事はなかった。
「どうしたんですか? 瞳さん」

 (1986年7月9日執筆)

つづく

1行日記
昨日も雨、今日も雨。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?