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あとがきのあとがき『ナナフシの恋』

 「メフィスト」読者には本格ミステリファンも多いでしょうから、そんな皆様に向けての新作PR。

 まずは簡単にタイトルの説明を。ナナフシとはナナフシ目ナナフシ科の昆虫。
  植物の枝にそっくりな形をしているため、敵はなかなかその姿を見つけ出すことができません。
 サブタイトルの mimetic は「模倣の、撮態の」という意味。そう――本書のテーマは撮態であります。

 最近の黒田は全然本格を書かないじゃないか、とお嘆きのあなた。
 ひさしぶりの新刊も、ずいぶんと爽やかな表紙だし、タイトルに「恋」とか入ってるし、こりゃ、またしても本格じゃないなとがっかりしているかたも多いのではないでしょうか。

 『ウェディング・ドレス』でデビューしてからすでに八年近く。
 著作も共著本、漫画原作本を含めれば二十作を超えました。
 そのうちの大半は殺人事件を扱った本格ミスチリです。
 挙銃、ナイフ、毒薬、ダイナマイト、自動車.……使った凶器も様々。
 読者をあっと驚かせたくて、普通に考えれば凶器にならないヘッドホン、猫、はたまた笑顔を殺人の道具に用いたこともありました。
 どの作品かすぐに思い浮かべることができたなら、相当なマニアですね。
 黒田マニアなんて、なんの自慢にもなりませんが。

 さて、最新作の『ナナフシの恋』。
 激しくネタばれしてしまうと、実はもっとも怪しい人物こそが真犯人です。
 動機もいたって単純。
 そこに驚くべき要素はなにもありません。
 描きたかったのは「意外な凶器」ただ一点。
 そのワンアイデアをどうにか形にしたいと試行錯誤を繰り返した結果、なんとも不思議な物語ができあがりました。
 ぜひとも、とんでもない凶器に驚いてみてください。
 そう――本書は自信を持って皆様に薦めることができる、紛うことなき本格ミステリなんです。

 前作「カンニング少女」で僕の名前を知ってくれた、あまりミステリに馴染みのない読者にも読んでもらいたいと思っています。
 しかし、本格色を強くすると手にとってもらえない可能性が高い。
 そこで『カンニング少女』と同じく高校生を主人公に据え、装丁も爽やかな青春小説風にしてみました。
 実は、この作品そのものが擬態していたという壮大な罠!

 そんなわけで、青春小説っぽいからと遠慮していた本格ミステリファンのあなたも、ぜひご一読をお願いいたします。

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↑本文内でノベルス版の表紙について触れているので、こちらをアップ。
↓文庫版を下敷きにした電子書籍版を販売中。


〈メフィスト〉2008年5月号 掲載

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