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MAD LIFE 180

12.危険な侵入(13)

4(承前)

「私も一緒に行く」
「馬鹿。ふたりともいなくなったら変に思われるだろう?」
「おじさんひとりで大丈夫?」
「俺があの部屋に入るのを気づかれないように、おまえは店主の気を惹いてくれ」
「え? どうやって?」
「どうでもできるだろう? なにか追加注文するとか、道を尋ねるとか」
「わかった、やってみる」
「よし。じゃあ、作戦開始だ」
「胸がドキドキするな。楽しみ!」
 まるで緊張感のない瞳を尻目に、洋樹は席を立った。
 トイレに向かうふりをしてふたつのドアのちょうど中間に立つ。
「すみませーん」
 瞳が店主を呼んだ。
 エプロンで手を拭きながら、慌てて店主がやってきた。
 どんな会話を交わしているかはわからないが今のうちだ。
 洋樹は素早く左側のドアの取っ手をひねる。
 ドアは簡単に外側へ開いた。
 そのままドアの向こう側に身体を滑り込ませる。
 まずは室内を見渡した。
 殺風景な場所だ。
 会議用の机がひとつと、折り畳み式のパイプ椅子が五つ。
 部屋の隅にはホワイトボード、窓の下には人が隠れられそうな大きな戸棚が設置されている。
 置いてあるのはそれだけだった。
 洋樹の入ってきたドアのほかにもうひとつ、向かい側に別のドアが見える。
 洋樹は部屋を横切り、そのドアを開けた。
 この喫茶店の裏口らしい。
 目の前には細い路地があった。
 ドアを閉め、もう一度室内を見渡す。
 戸棚を開けてみた。
 最上段の棚にガラスの灰皿がひとつだけ置かれている。
 洋樹は顎に手を当てた。
 ここはなんの部屋なのだろう?

 (1986年2月8日執筆)

つづく

1行日記
ちゃんちゃちゃちゃーん。今日は八神さんの結婚式! お幸せに。

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