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小説〈チームしゃちほこ〉01

第1話 トリプルセブン(1)


 もしも、いいことなくたってね。
 そのぶん、でっかいラッキーが君のこと待っているんだよ。
 だから信じ続けていれば、きっといつかいいことあるさ。

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 ちょびひげを撫でながら口にする「ごぶれいします」という決まり文句以外、なにをしゃベっているのかまったく理解できなかったミクロ経済学の講義を終え、僕は学食へと向かった。
 食券機の前に立ち、薄っぺらい財布の中身を覗き込む。千円札三枚とあとは小銭が少しだけ。これが僕の全財産だ。親からの仕送りはまだ当分先。それまではこのお金だけで生き延びなければならない。
 自業自得だってことは百も承知だ。資金を増やそうと思って、パチンコなどに手を出したのがそもそもの間違いだった。あっという間に三万円の損失。
 己の愚かさを呪う。わかっていたじゃないか。僕は幼い頃から運がない。遠足や修学旅行の前には必ず風邪をひき、テストのヤマはことごとくはずれ、インターハイ出場が期待された陸上の県大会にはあっけなく敗北し、アルバイトで初めて稼いだお金はもらった数時間後にスリに奪われて……とにかくずっとツキに見放され続けてきた。
 ため息をつきつつ、この学生食堂で一番安いカレーライスを注文する。
 溶けたタマネギしか入っていないカレーを受け取り、入口近くのテーブル席に腰を下ろした。冷たい隙間風がひっきりなしに吹き込むこの席は誰もが敬遠するため、ほかの学生が寄りつくこともほとんどない。
 できることなら、今日は誰とも関わりを持ちたくなかった。一人きりでなにも考えず、ただただぼんやりしていたい。本当は一日中アパートで寝そべり怠惰な時間を過ごすことができればよかったのだが、間の悪いことに今日の講義は出席をとる課目ばかりだった。
 僕のすぐそばを数人の学生たちが通り過ぎていく。スガキヤの新メニューがイケてるだの、ナナちゃん人形の衣装が変わっただの、他愛もない話題で盛り上がっているようだ。それしきのことで楽しく騒げる能天気な脳ミソがほしいと心の底から思う。
 再びため息をつき、銀スプーンでライスをつついた。水の量が多すぎるのか、ライスはずいぶんとやわらかくてべちゃべちゃしている。もともと少なかった食欲がますます減退しそうだ。
 どうしても口に運ぶ気になれず、意味もなくカレーとライスをかき混ぜていると、
「天誅」
 耳もとでそう囁かれ、いきなり後ろから羽交い絞めにされた。突然のことに 、「ぷぎゃあっ」と無様な叫び声をあげる。数日ぶりに発した言葉が、欲求不満のオス猫みたいだというのはなんともさまにならない。
「なんなんですか、一体? やめてくださいよ、先輩」
 周囲の視線を気にしながら、首に絡んだ細く白い腕を引き剥がす。
「お。勘がいいな、おまえ」
 振り返ると、ボーダー柄のサマーニットをおしゃれに着こなしたジュン先輩が、口をとがらせながら立っていた。そんなとぼけた表情でもカッコよく見えるのだから、恥ずかしくて彼女いない歴を公言できない僕にしてみれば羨ましい限りだ。
「なんで俺だとわかったの?」
 本気でいっているのか、先輩はそんな質問を僕に投げかけてきた。
 わからいでか。産毛すら生えていないつるんとした腕を観たら一目瞭然。そこまで完璧に肌の手入れを行なっている男なんて、この大学にはジュン先輩くらいしかいない。いや、そもそも僕に話しかけてくる学生は彼一人だけだった。

つづく

この小説のサブタイトルにもなった
チームしゃちほこ(現TEAM SHACHI)の「トリプルセブン」

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ナナちゃん人形
 過去にはチームしゃちほことコラボしたことも

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